読書の価値(森博嗣)

森博嗣『読書の価値』NHK出版新書、2018年より。 世の中に、本というのは「無数」に存在している。実は有限なのだが、個人が読める量では全然ない。人生は多めに見積もっても三万日だから、毎日一冊読んでも、僅か三万冊しか読めない。だいたい国内では、平…

陰翳礼讃(谷崎潤一郎)

陰翳礼讃 作者:谷崎潤一郎 発売日: 2019/01/29 メディア: Kindle版 最近の若者たちの中には、自分のことを「陰キャ」と呼ぶことでうまく他人とコミュニケーションをとれない自分のことを慰めようとしたり、自分の部屋に一人こもってネット動画をずっと見てい…

昭和の女中さんの回想

中島京子『小さいおうち』文春文庫、2012年より。 快活で、いつもお幸せそうに振る舞っていらしたけれども、奥様の最初の結婚は、幸福ではなかったといえるだろう。 最初のご亭主は、そこそこの会社にお勤めのサラリーマンという話だったが、わたしが入った…

「人間の愚劣さも崇高さも両方を知るべき」(上野千鶴子)

上野千鶴子『発情装置:エロスのシナリオ』筑摩書房、1998年より。 ※強調は引用者 「援助交際」の女の子たちの現実をよく知っていそうに見える宮台くんの言い分は、そんなことしてると男にたかをくくるようになるよ、人生をみくびるようになるよ、というきわ…

「人間機械の絶望がファシズムの政治的目的を育てる豊かな土壌」(E. フロム)

エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』東京創元社、1951年より。 ※下線・強調は引用者 われわれの願望――そして同じくわれわれの思想や感情――が、どこまでわれわれ自身のものではなくて、外部からもたらされたものであるかを知ることには、特殊な困難がともな…

「「自由」の名のもとに生活はあらゆる構成を失う」(E. フロム)

エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』東京創元社、1951年より。 ※下線・強調は引用者 批判的な思考能力を麻痺させるもう一つの方法は、世界について構成された像をすべて破壊することである。さまざまの事実は、それらがくみいれられた全体の部分としてのみ…

「相対主義は人間の考える願望と関心を喪失させる」(E. フロム)

「事実と意見を区別しなさい」とは、学生に論文指導をしている先生の多くが一度は言うセリフかも知れない。しかし、事実を強調しすぎることが、考えることに対する人間の関心と情熱を奪ってしまうというフロムの視点が面白い。 エーリッヒ・フロム『自由から…

「人生全体を何かの準備のために費やして、一体いつ人生を味わい楽しむのか」(戸田山和久)

戸田山和久『教養の書』筑摩書房、2020年より。 こんな調査結果もある。アメリカのロチェスター大学の卒業生を対象にした調査だ。卒業前に学生をサンプリングし、人生の目標について尋ねる。金持ちになりたい、有名になりたいなど外発的抱負を語ったグループ…

Powerless Rage

www.americanpurpose.com The internet is now a space that concentrates powerless rage. It is aneasy field for extremists and hostile states to exploit, a place where populists push propaganda and promise that they, and they alone, can help …

「出て行け。ここは邪悪な土地だ」(映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より)

戸田山和久『教養の書』筑摩書房、2020年より。 ジュゼッペ・トルナーレ監督のイタリア映画『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)だ。(中略)第二次大戦が終わったばかりのシチリア島の寒村が舞台だ。村人の唯一の娯楽は教会を兼ねた映画館。父親が出征…

岩波茂雄(岩波書店創業者)の「社会関係資本」

竹内洋『教養主義の没落:変わりゆくエリート学生文化』中公新書、2003年より。 資本とは価値増殖の過程である。貨幣という経済資本や教育訓練による人的資本、教養のような文化資本もある。人的資本が個人に、文化資本が家庭や学校に埋め込まれているときに…

孤独な人にこそスポットライトは当たる

上田紀行『愛する意味』光文社新書、2019年より。 寂しいこと、孤独であることというのは、それ自体はそんなに人生で悪いことじゃない。「寂しい。誰からも構われない」という、単にその次元で終わったらそれは悲しいことだけれども、そのとてつもない寂しさ…

愛に見返りを求めてはならない

上田紀行『愛する意味』光文社新書、2019年より。 基本的に私たちは、「愛している人には愛されたい」と期待するものです。味気ない言い方をすれば、見返りです。それも「こんなにしてあげているのに」と、自分のしたことは過大に見積もるわりには、受け取っ…

「教養とは「まだ知らないこと」へフライングする能力のことである」(内田樹)

内田樹『知に働けば蔵が建つ』文春文庫、2008年より。 ※強調部分は原文では傍点 雑学情報は「一問一答」形式で管理されている。 「タイ・カッブの生涯打率は?」「三割六分七厘」。 (中略) 「雑学」とは一問一答的に設定された問いに「正解」を与える能力…

教養のある人とは?

戸田山和久『教養の書』筑摩書房、2020年より。 ※強調は原文。 教養にはどうやら「自分をより大きな価値の尺度に照らして相対化できること」が含まれるようだ。もう少し敷衍しよう。まず逆に、自分を相対化できない、というのはどういうことかを考えてみる。…

文化とはもともとイヤミったらしくて差別的なもの

戸田山和久『教養の書』筑摩書房、2020年より。 ※強調は原文。 文化のもつイヤミで差別的な構造と、文化の多様性と豊かさは表裏一体である。われわれは現在、能も歌舞伎も、謡曲も義太夫も浪花節も民謡も、クラシック音楽もブルースもヒップホップも楽しむこ…

「日本人の権威主義」「学者は平気でウソをつく」などなど

瀬木比呂志『リベラルアーツの学び方』ディスカバー、2015年より。 日本でベストセラーになる思想書の多くは、海外の思想をわかりやすくパラフレーズした「舶来もの」、横文字をタテにするという意味では「横タテもの」だったといてよいと思います。 こうし…

40歳からの方が英語は伸びる!

「音楽のように聞き流しているだけで英語が聞き取れるようになる」とか「この教材を使えばたったの数週間で英語が話せようになる」とか巷にはいろんな英語リスニング・スピーキングの教材の宣伝がありますが、プライベートでも仕事でも今まで30年以上も英語…

Let It Be が生まれた経緯

English Journal 2016年4月号 ビートルズの名曲「Let It Be」がどうやって生まれたかをポール・マッカートニー自身が語っています。夢の中に出てきた母親が語った言葉だったというのは初耳でした。あと、当時は当たり前のように薬物を乱用していたんですね。…

アナクロニスト(時代錯誤者)としての自負(西部邁)

西部邁『人生読本』ダイヤモンド社、2004年より。 僕の人生論は、多分どころか疑いもなく、ドン・キホーテの言動と受け取られるのがせいぜいのところでしょう。学術、評論そして雑記にわたって、おそらく八十冊を上回る書物を僕は出しております。しかし、そ…

読書に淫することなかれ(西部邁)

西部邁『人生読本』ダイヤモンド社、2004年より。 読書好きの人間には、えてして、インダルジェンス(耽溺)といった雰囲気がつきまとう(中略)あれも読んだこれも読んだ、あの人はああ書いていたこの人はこう書いていた、といった調子で口角に泡を飛ばす、…

評論家・学者に向いている人とは?

小谷野敦『評論家入門―清貧でもいいから物書きになりたい人に』(平凡社新書、2004年)より。 言うまでもないことだが、評論家を目指すとしたら、とにかく読書が好きでなければならない。作家で、読書が嫌いだという人もいるけれど、作家ならそれでもいいか…

コロナ封じ込め失敗の経験が優位性をもたらす?

フォーリン・アフェアーズ・リポート2021年1月号に掲載されている論稿「ワクチン開発と集団免疫――米中免疫ギャップの意味合い」の中で、米外交問題評議会シニアフェローのヤンゾン・ファン氏は、短期間で国内での感染拡大を封じ込めることに成功した中国では…

怒りを飼い馴らすということ

誰もが常識でわかっていることでも、改めて言われてみると耳が痛すぎてなんも反論できん…。 怒りは人生を壊す唯一の感情です。怒りによってとっさに発した一言が、今まで積み上げてきた人間関係や信頼関係、キャリアをすべて台無しにすることがあります。(p…

口頭発表の作法と技法

30年近く前の古い本ですが、『知の技法』の「口頭発表の作法と技法」という章を読んでいます。これは学生向けのテキストですが、実際には学会などでも守れていない先生方をよく見るので、常に意識していないといけないのでしょうね。http://www.utp.or.jp/bo…

大学の授業がつまらないワケ

浅羽通明『教養論ノート』幻冬舎、2000年より。 私たち人間はどこまで動物であるか? 大宇宙のなかで、地球と私たち生命はいかなる存在であるか? こういう「私たち」に即した問いかけに応えるかたちへとあらためて構成し直されたとき、生物学の研究成果は、…

高校の教育と大学の教育の違い

小林康夫・船曳建夫編『知の技法』東京大学出版会、1994年より。 高校までの教育はあくまで、知る者が知らない者に知識とその獲得の方法を与えるという、関係の不均衡と能力の落差が前提でした。しかし大学での教育は、教師と学生が同等に立つことを目標とし…

大人の「評論家たち」を鼻で笑う若者たち

上野千鶴子『サヨナラ、学校化社会』ちくま文庫、2008年より。 ※強調・下線は引用者 フリーターの若者たちへの論評や分析で最近、目につくものに、フリーターの若者たちはいろいろ夢は語るが、そのために現在、なにかの準備や努力をやっているわけではない、…

落差のないところには価値も情報も生まれない(上野千鶴子)

上野千鶴子『サヨナラ、学校化社会』ちくま文庫、2008年より。 情報生産性が高い人材は、どうしたら生みだせるのか。情報とは差異からしか発生しません。そのとき、落差のある生活世界や価値体系をどれだけ知っていて、自分のなかにその落差のあるシステムを…

誰をも幸せにしない学校化社会というシステム

上野千鶴子『サヨナラ、学校化社会』ちくま文庫、2008年より。 ※強調・下線は引用者。 最近の子育て相談などで、「おばあちゃんがそばにいて大変困ります。私たちのせっかくのしつけをおばあちゃんが骨抜きにしてしまって、子どもを甘やかすので」というのに…