勢古浩爾『ビジネス書大バカ事典』書評

ビジネス書大バカ事典

ビジネス書大バカ事典

勢古浩爾の本は、公の場で読んでいる時には気をつけないと吹き出してしまう恐れが常にある。彼の言う世の「バカ」たちをコケにするその言葉が核心を突いていて、読者は溜飲を下げられるのである。

今回のこの本は、ビジネス書「もどき本」を徹底的にコケにする内容である。書店の店内をくまなく巡っている時、ビジネス書や自己啓発の本の棚は他の棚と違ってなんだか異様なオーラを醸し出しているのに気づく。カバーから腰巻きからタイトルから、何から何まで明るく、一言で言ってしまうと暑苦しいのである。だから大体は一瞥もくれず前を通り過ぎる。これからもおそらく同じようにするだろう。ところが今回この本を読んで、そうした「もどき本」の世界を垣間見ることになった。

どれだけアホなことが書いてあるかは本書を読んでもらうとして、それよりもさらに驚くのが、何度も懲りずにこのような本を購入してベストセラーに押し上げている人たちの存在である。オレオレ詐欺でだまされる人にはまだ同情の余地があっても、詐欺占い師に振り込んだ三千万円を返してほしいとか訴えている人たちには全く同情する気になれない。それと同じで、アホな本を自分で買って「だまされた!」とか言われても、全く同情の余地はないのである。

『パチンコ必勝法』なる本だか雑誌を買って、「全然勝てねえじゃねえか!」と集団提訴した人たちがいる。恥の上塗りとはこのことである。まず、そんな本を買ったことを恥じなければならないのに、騙されたとお上に訴えるという恥の上塗りであり、そんなことは本来、「そんな本を買ったおれがバカだった」で終わりなのだ。欲の皮がつっぱりすぎているのだ。(225頁)

引用したい勢古の言葉はたくさんあるのだが、それをやると長ったらしくなるのでやめておく。勢古は「わたしの下品な文章に嫌悪感を抱く人がおられるかもしれない」(3頁)、「弁解するつもりはないが、「もどき本」の著者たちが桁外れに下品なものだから、心ならずも、下品を以て下品を制す、しかなかったのである。なにしろ敵は下品など屁とも思わぬつわものばかりである。ミイラ取りがミイラになる、下品で報いる当人が相手とおなじような下品になる、ということは重々わかっているのだが、それを抑えきるほどまで、わたしは人間ができていない。もうこれからも無理だろう」(4〜5頁)と書いている。確かに『思想なんかいらない生活』の頃に比べたら硬派の度合いは低下しているかも知れないが、変わらぬ常識人オヤジのユーモアが自分は好きである。


【参考書評】
勢古浩爾『目にあまる英語バカ』http://d.hatena.ne.jp/sunchan2004/20100614
勢古浩爾『日本を滅ぼす「自分バカ」』http://d.hatena.ne.jp/sunchan2004/20090713
勢古浩爾『まれに見るバカ』http://d.hatena.ne.jp/sunchan2004/20080203
勝間和代『断る力』http://d.hatena.ne.jp/sunchan2004/20090404