「善悪の判断できない人は社会的に葬られる」(美輪明宏)

朝日新聞2013年6月8日土曜版Be「悩みのるつぼ」(人生相談コーナー)より。

相談者:女性 60代
「見て見ぬふりが正しいのか」

何か社会にお役に立ちたいと意を決したのが10年前のことです。ことさら若い世代のしつけがなってないと長年懸念を抱いていたので、見ず知らずの若者に対しても勇気を出して注意をしています。

たとえば「ここは公共の場なのでケイタイやスマホは使えませんよ」とか「たばこは外の喫煙室でお願いします」など、さりげなくアドバイスしてきました。たいていは、迷惑がられたり、けげんな顔をされたりします。舌打ちしたり、小声でウルセーなとこぼしたりする相手もいました。言葉の暴力を受けたことはありませんが、怖い思いはしました。そんな折、いつも私の心はブルーになります。

先日、図書館で騒いで、泣き声を上げる子供がいました。私が「ここは図書館だから静かにしましょうね」とその子を諭すと、若いママさんがキッとした顔をして飛んで来るなり私に「何でうちの子だけ怒るの?他にだっているじゃない!」とはなからけんか腰です。

今の時代、見て見ぬふりをする人がほとんどです。昨今の若い男性は護身用にナイフを携帯するとのこと。軽く注意したはずなのに、相手が殺意さえ覚えたら切に怖いです。

図書館の件があってからというもの、心は委縮したまま。道徳に反する行動を見ても声を掛けられなくなりました。どうしたらいいのでしょう。

回答者:歌手・俳優 美輪明宏
「危険には近づかない方がいい」

男はつらいよ」の寅さんの時代と間違えていませんか。よそのおじさん、おばさんが、子どもをしつけたり、叱ったりして、怒られた方も「ありがとうございます」などと礼を言っていた時代は終わりました。「人の子も我が子、我が子も人の子」と地域の全体責任で子育てをしていた時代もありましたが、欧米風の個人主義が浸透してきて、今はもう違います。

「うちの子は悪くない」などとPTAや教育委員会に訴えて裁判をしたり、子どもが教師に叱られると、逆に食って掛かったりするバカ親もいる始末です。権利ばかり主張する、頭の痛い人たちがたくさんいるのです。

子ども自身だって、今は中高生でも脱法ハーブのような薬物に手を出している時代です。そういう子どもたちは、爆発するきっかけを待っていることだってあります。あなたが注意したことで火が付いて暴発したらどう対処しますか。自分も傷つくし、もしものことがあって命を失ってもつまらない。相手に傷害といった犯罪を起こさせることにもなりかねません。

それでも「見て見ぬふりはよくない」「注意するべきだ」という人もいるけれど、命を失ってもいいという覚悟でやるべきですね。確かに昔は見て見ぬふりはよくなかった。でもそれは、より健全な時代だったからです。

今は凶暴な世の中になっているから、やめたほうがいい。頭がおかしくなった人に、殺されてもいいんですか?妙な正義感が一番困ると思います。

社会的な規則を守らない人たちは、自業自得でそれなりの人生を送るでしょう。たばこを吸うべきではないところで吸っている大人は、善悪の判断ができない人たちですから、社会的に葬られていきます。放っておいたらいい。

もっとも、悪意がなく、知らずに間違いを犯している場合には、注意ではなくて「忠告」をしてあげましょう。「余計なことかもしれないけれど、こうした方がステキですよ」とソフトに話す。

また、小学生までの小さな子どもは危険が少ないので、他人でもアドバイスをしてあげると良いでしょう。中学生になると、逆恨みもするし、小型ナイフを持っているような場合もありますから、やめておきましょう。相手の年齢や人柄によって、対応を変えなければなりません。注意をしたいのなら、そこを瞬時に見分ける感覚を持っている必要があります。