ウィリアム・パウンドストーン『ビル・ゲイツの面接試験』書評

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

ビル・ゲイツの面接試験―富士山をどう動かしますか?

先日、とある喫茶店で読書をしていたところ、近くの席で店長らしき人がアルバイトの面接を始めました。相手はおそらく高校生だろうと思います。そして、いくつか事務的な質問をしたあとで「将来の夢は?」と尋ねるのを耳にしました。自分が学生の頃、アルバイトの面接で将来の夢を聞かれたことなど一度もなかったので、そのような質問にちょっとびっくりしたのでした。

それでというわけでもないのですが、以前に就職面接で変わった質問をする会社があるという話を聞いたことがあったので、とりあえず思いついた本書を読んでみました。予想以上に面白かったです。このような面接をバカバカしいと考えるか、実は大きな意味が込められていると見るかは人それぞれでしょうが、このような試験を行う有名企業は、「適切な人材を見つける」ことよりも「不適切な人材をフィルターにかける」ことのほうをより重視しているということを本書で知りました(181〜182頁)。その目的のためにこうした変則的な面接試験が機能しているのかどうかも意見が分かれるところかも知れませんが、個々の企業がどのような資質に対して有能と判断するのかがわかり、興味深い内容です。

本書ではこのような試験が生まれてきた歴史的経緯と、企業に対して面接はどうあるべきかについての提言も行なわれていますが、やはり一番面白いのは実際の試験問題が紹介されている箇所と、後半の「解答編」でしょう。自分の頭が悪いせいもあるかも知れませんが、いくつかの問題は全くのお手上げでした。以下に自分が理解できたものの中で、本書の中で紹介されているとりわけ面白いと思った問題をいくつか引用します。

Q.錠剤が入った瓶が五本あります。そのうち一つだけ、すべての錠剤が「汚染」されているものがあります。汚染された錠剤を判別する唯一の方法は、重さです。通常の錠剤の重さは一〇グラムで、汚染された錠剤は九グラムです。秤があって、一度だけ重さを量ることが許されています。汚染されている瓶はどれか、どうやって見分けますか。


A.重さを計ることで何かがわかるような状況を作らなければならない。一つの方法は、瓶に1番から5番までの番号をつけ、1番から一錠、2番から二錠、3番から三錠、4番から四錠、5番から五錠取り出して、全部を秤に乗せて重さを計る。すべての錠剤が正常なら、結果は一〇+二〇+三〇+四〇+五〇=一五〇グラムになるはずだ。実際には、欠陥品の瓶の番号によって決まる分だけ、重さがこれに足りなくなる。合計が一四六グラムだったとしたら(四グラム足りない)、軽い錠剤が入っているのは4番の瓶ということになる。

別解もある。この方が計る錠剤の数が少ないという長所がある。計る錠剤の瓶は4番までにし、一+二+三+四=一〇錠だけを量る。すると、重さが一〇〇グラムより少なければ、足りない分から瓶の番号がわかる。ちょうど一〇〇グラムだったら、計らなかった五番の瓶が欠陥品だ。(250〜251頁)

Q.三リットル入りのバケツが一個、五リットル入りのバケツが一個あります。水はいくらでも使えるものとして、正確に四リットルの水を量るにはどうすればいいでしょう。(注:この二つのバケツ以外の容器は使えません)


A.五リットルのバケツをいっぱいに満たし、それを慎重に、からの三リットルのバケツに、それが一杯になるまで注ぐ。そこでストップ。全然こぼさずにできれば、五リットルのバケツには、二リットルが残っている。

二リットル残ったからといって、どうにかなったわけではない。さらに前に進む唯一の方法は、三リットルのバケツをからにして、五リットルのバケツから三リットルのバケツに、二リットルの水を入れることだけだ。

そこで必要なのは、五リットルのバケツにまた水をいっぱいに汲むことだ。それを慎重に三リットルのバケツに注ぎ、水がへりまでくるようにする。それでちょうど一リットルの水を移したことになり、五リットルのバケツには四リットルが残ることになる。

別解(もう一回水を注ぐ操作を必要とする)は、三リットルのバケツをいっぱいにして、それを五リットルのバケツにあける。三リットルのバケツをもう一回いっぱいにして、また五リットルのバケツにあける(三リットルのバケツに一リットル残る)。そこで五リットルのバケツをからにする。一リットルの水を五リットルの水にあける。もう一度三リットルのバケツ一杯の水を汲み、中身を五リットルのバケツに移せば、四リットルになる。(265〜266頁)

Q.五〇組の夫婦のいる村の男全員が、不貞をはたらいています。村の女はみな、自分の夫以外の男が不貞をはたらけば、即座にそれがわかります(何せ小さな村ですから)。でも、自分の夫が不貞をはたらいてもわかりません(知らぬは何とやらばかりなりです)。村の厳しい姦通に関する掟では、自分の夫が不貞をはたらいたことを証明できる女は、その夫を即日殺さなければならないとしています。この掟に逆らおうなどと思う女はいません。ある日、決して過ちを犯さないことで知られる女王が、この村を訪れます。女王は、少なくとも一人の夫が不貞をはたらいていると宣告します。どうなるでしょう。


A.まず、女王の宣告がある前の村に存在する状況から始めよう。すべての男が不貞をはたらいたことがある。女は村の野放図な不倫のことを知っていて、不実な夫を殺すことを求める法もある。それなのに、どの女も自分の夫を殺していないのはなぜか。

不実な夫の妻だけが、その夫を殺すとされているからだ。どの妻も、他の四九人の不義のことを知っているが、自分の夫の不義だけは知らない。他の妻に、あなたの夫は不倫していますよと教えるのは不作法で、それはできない。

これは奇異な状況だが、このパズルで処理しなければならないのは、そういうことだ。いよいよ女王が村にやってきて、少なくとも一人の夫が不貞をはたらいていると宣告する。それで事態はどう変わるか。

変わらない。「少なくとも一人」どころか、妻たちは、四九人の不実な夫たちの密かなリストをそらんじているに違いない。女王の宣告は、まだわかっていないことを、何も、誰にも教えていない。

面接では、ここで多くの人が止まってしまう。女王の宣告には情報としての価値がないのだから、それ以上に何が言えようか。だから、どの女も自分の夫を殺しはしない。何も起こらない。

「何も起こらない」のは正しい――女王が宣告を行なった当日の間は。

翌日も何もない。その次の日も。

四九日目まで飛ぼう。一人の女を特定し、エドナとしよう。エドナは、四九人の夫の不貞のことを知っている。その一人マックスは、友人のモニカの夫だ。噂が広まることを考えると、エドナは、モニカが少なくとも四八人の不貞を知っているはずだと見ている。四九人の夫から、当のマックスを引いた四八人だ。誰もモニカに、マックスがしたことをあえて教えはしない。

さて、ここから話がややこしくなる。四九日目、エドナは、モニカがマックスは不貞をはたらいたと判断できるという結論を出せる。モニカは、それまでの日のいずれでも、誰かの夫が殺されなかったことを理由にそう結論を出せる(とエドナは推理する)。

村で不倫をした夫が一人だけだったら、その妻は、女王の宣告の日(第一日とする)に夫を殺していたはずだ。その場合、当の妻以外は、妻全員が、その一人の夫の不倫のことを知っていただろう。女王の宣告は、この妻の頭にがんと響くだろう。自分が不貞のことを何も知らない以上、その「少なくとも一人」の不実な夫とは、自分の夫ということにならざるをえない〔他の夫なら、そのことを自分は知っているはずだから〕。その妻は、その日のうちに、法の定めるとおり、夫を殺していたはずだ――ただし、不貞をはたらいている夫が一人だけだった場合のことだ。

ところがどの夫も殺されることなく、二日目が明けた。それは、全員に、村で不貞をはたらいた夫は一人だけではないことを教える。それと、女王が間違ったことは言わないという事実から、少なくとも二人はいるに違いないということになる。

もし二人だけだったら、その妻はそれぞれの夫を二日目に殺していたことになる〔二人いるはずなのに、自分は一人の話しか知らないから〕。三人だったら、その妻は三日目にそれぞれの夫を殺していたことになる・・・・・・四八人いたら、その四八人の妻は、四八日目に夫を殺していたはずだ。

さて四九日目になり、モニカは四八人の不貞をはたらいた夫を知っているが、それまでにそんな大量殺人がなかったことを、不可解に思わざるをえない。ありうる説明はただ一つ(これはまだエドナが、モニカが考えているはずのことを推理している段階)。モニカ自身の夫が四九人目の不貞の夫だということだ。

そこでエドナは、間違いなく論理的なモニカは、四九日目の夜にマックスを殺すことになる。エドナは、村にいる他の妻全員についても同じ結論に達する。四九日目には、血の海が広がるだろうとエドナは思う。

ところが五〇日目になり、まだ何も起こっていない。今や、ありうる唯一の説明は、モニカは(そして他のすべての妻たちが)、四九人目の不貞の夫を知っていたということだ。それはマックスではありえない。残った一人の可能性があるのは一人だけ、エドナ自身の夫、エドガーだ。

それで五〇日目には、エドナは自分の夫が不実であると結論を出せる。他の妻たちも、同じ結論に達する。

このパズルの答えは、「四九日の間は何も起こらないが、五〇日目になると、五〇人の妻全員が、自分の夫を殺す」となる。(273〜276頁)

ちなみに上の問題は、はじめ何度考えても納得がいきませんでした。頭の回転が鈍いのでしょうか・・・。いくつかのサイトで同じ問題が紹介されていましたが、読んでもやはりピンと来ませんでした。「少なくとも一人以上」なのだから、妻Aは、妻BがA・Bの夫以外の48人の夫が浮気していることを承知済みだとどうやって知るのだろうとずっと思っていましたが、解答中に書かれている「噂が広まることを考えると、エドナは、モニカが少なくとも四八人の不貞を知っているはずだと見ている」(274頁)という条件がミソであることにやっと気づきました。

女王が与えた「情報」に新しさはなくても、自分以外の情報源から確証が得られると、結果に影響を及ぼすこの問題は、非常に驚きで面白いと思いました。

ちなみにこうした論理の問題で登場する人間は「完全に論理的な存在(Perfectly Logical Being: PLB)」(168頁)であるので、非現実的な存在であることは言うまでもありません。実際には自分の夫以外の浮気を知っていたら、自分の夫も浮気しているはずだと思うのが現実の人間でしょうから。

Q.四人の人が夜、崩れそうな橋を渡らなければなりません。欠けている横板も多く、橋が支えられるのは一度に二人だけです(二人を超えると、橋は崩れてしまいます)。旅人は足元を確かめるために懐中電灯を使わなければなりません。そうでなければ、欠けた隙間で足を踏み外し、落ちて死んでしまうのは確実です。懐中電灯は一つしかありません。四人の人の歩く速さはそれぞれ違います。アダムは一分で橋を渡れます。ラリーは二分、エッジは五分、いちばん遅いボノは一〇分かかります。橋は一七分後には崩れます。どうすれば四人は橋を渡れるでしょう。


A.一回目――いちばん速い二人、アダムとラリーが渡る。これで二分。一方(アダムとする――どちらでもいい)がすぐに懐中電灯をもって引き返す(一分)。経過時間は三分。

二回目――遅い二人、エッジとボノが渡り、一〇分かかる。向こう側に着いたら、それで二人の移動は終わり。懐中電灯を、向こう側にいる中でいちばん速い人に渡す(一回目でアダムが戻ったとすれば、ラリー)。ラリーは懐中電灯をもってこちら側に戻る(二分)。経過時間は一五分。

最後の片道――いちばん速い二人組が、こちら側で再結成される。二人でもう一度、最後に渡る(二分)。経過時間は一七分。(284頁)

Q.玄関に三つのスイッチがあります。一つは奥にある部屋の照明を操作するものです。その部屋に通じる扉は閉まっていて、その部屋の照明がついているかどうか、わかりません。三つのスイッチのうち、どれがその部屋の照明を操作するか、特定しなければなりませんが、部屋に一回行くだけで、確信をもってこれと言えるには、どうすればいいでしょう。


A.答えはこうなる。三つのスイッチをそれぞれ1、2、3と呼ぼう。それから1を入れ、2と3は切っておく。一〇分待って、1を切り、2を入れる。すぐに部屋へ行こう。

明かりがついていれば、スイッチ2がこれを操作していることになる。明かりが消えていても温かければ、スイッチ1で操作されている。消えていて冷たければ、スイッチ3によって操作されている。(293頁)

Q.このゲームは、もう一人の参加者と一緒に行ないます。適当な、最初は何も置いていない長方形のテーブルで、十円玉が何個でも使えるものとします。二人はそれぞれ交互に、十円玉をテーブルの好きなところに置いていきます。規則はただひとつ。自分の十円玉が、テーブル上にある他の十円玉に触れてはいけません。二人は順番に十円玉を置いていき、テーブルが十円玉でいっぱいになるまで続けます。すでにテーブルにある十円玉に触れないで、新たに置くことができなくなった方が負けです。自分が先手として、どんな戦略をとりますか。


A.こちらが最初の一手でどうしようと、相手はそれをまねるのが有効になるらしい。相手は、こちらが置いた位置から一八〇度回転したところに置けばいいのだ。こちらが北東の隅に置けば、相手は南西の隅に置くなどのことだ。

一か所だけ例外がある――相手がまねできない場所だ。初回の手をテーブルの真中に置くことである。中心を決める線が引いてあるわけではないにしても、テーブルには必ず一か所だけ中心がある。そこに十円玉を置いてしまえば、もう誰もそこは取れない。

それだけでは中心を取ることが第一手としていいということにはならない。単に特別の第一手はこれしかないというだけであり、先手という地位を利用して相手にはまねのできないことをするというだけのことだ。
この考えは取っておこう・・・・・・。

こちらが何をしようと、ゲームの初めのうちは、相手はテーブルのほとんどどこにでも十円玉を置ける。いい戦略でかつ単純な戦略があるとすれば、それは相手がとれる手に対して、何も考えず、おうむ返しの反応をすることにならざるをえない。

ここまでの推論をまとめよう。先手としては、まず十円玉をテーブルのちょうど真中に置くこと。その後は、相手が打った手を「鏡に映す」ようにまねること。相手が今置いた十円玉から、テーブルの中心を通る直線を引き、その線上にあって、中心から相手の十円玉までの距離と同じ距離のところ(ただし中心をはさんで反対側)に置くのだ。

これは必ずできる。相手の最後の手をまねているだけだからだ(テーブルが対称だとすれば)。結局、相手の方が先に、すでに置いてある十円玉に触れないで新たに置くことができなくなる。(295〜296頁)

Q.導火線が二本あります。どちらもちょうど一時間で燃えきります。ただ、導火線は必ずしも同一のものではなく、一定の割合で燃えるわけではありません。燃え方が速い部分と遅い部分とがあります。この導火線とライター一個だけを使って、四五分を計るには、どうすればいいでしょう。


A.手順は以下のとおり。時刻ゼロで、導火線Aの両端と、導火線Bの一方の端とに火をつける。二本の導火線は接してはならない。導火線Aの二つの火が出会うのに三〇分かかる。火が出会ったとき、導火線Bにはちょうど三〇分ぶん残りがある。その瞬間に(燃えつつある)導火線Bの反対側の端に火をつける。二つの火は一五分後に出会い、経過した時間は四五分になる。(305頁)