ロバート・A・パスター『アメリカの中南米政策』

アメリカの中南米政策 (明石ライブラリー)

アメリカの中南米政策 (明石ライブラリー)

中南米に対して執着と無関心を交互に繰り返してきた米国
危機が去ると、結局米国の資源も関心も去ってしまう。第一次世界大戦が終わって、米国が派遣した地域から撤兵するのに約一五年かかっている。カストロ政権が成立してラテンアメリカへの援助が発動されてから約一〇年を経ると、米国の関心と資金が世界の他の地域へ移転してしまった。一〇年に亘る中米での挫折と、冷戦の終了により、ワシントンは再びラテンアメリカへの関心を失ってしまった。この執着と無関心を交互に繰り返すことが渦潮の中心的な特徴である。(46頁)

■「支配したいとは思わないが、管理不能状態も受け入れられない」という矛盾
ワシントンは支配したいと思っていないが、ラテンアメリカが政治的に不安定になることや急進化することに対していつまでも受け身のままではいられない。ちょうど、一九世紀の終わりからワシントンは、キューバを併合しないことを誓約したテラー修正条項と、キューバに米国が干渉する事を認めさせたプラット修正条項(訳者注:グアンタナモ基地の存続を認めさせた修正条項)の間に挟まれてきたように、米国は矛盾する考えの虜になっている。米国は支配したいとは考えていないが、管理が行き届かないような状態になることも望んでいない(平時においては、帝国主義的に支配することと、恐怖に対応することとは明らかに違っているが、不安定な情勢が続いて内戦と外国の干渉が結びついているときには、両者の違いはそれほど明らかでなくなる)。もし、この両者の矛盾の分析に力と富のギャップの分析を加えることができれば、その時初めて米国の対ラテンアメリカ政策を理解することができる。(68頁)

■狭い主権概念を修正し、中南米における民主国家のコミュニティを確立せよ
政治を変えるように影響力を行使し、米国とラテンアメリカとの関係を正常化させてバランスのあるものにし、非生産的な循環に陥っている西半球の渦潮から脱出するために、米国は自らの政治目標にラテンアメリカの国の視点を計算に入れるべきである。一方的に目的を追求してナショナリズムと対立するのではなく、すこし修正して多国間の目的を追求する方がより有効なやり方である。間接的な多国間戦略が有効であることを示す一番よい例は、サンディニスタはレーガンの正面からの攻撃に対しては生き延びたが、ブッシュが撤退を決めて舞台が戦場から投票箱に変わったときに、勝ち残れなかったことである。しかしながらこの新しい戦略が有効に機能するためには、ラテンアメリカもまた危険を冒して、防御的な狭い主権の概念を修正せねばならない。新しい戦略の目標は、平和的、民主的で、繁栄する国家のコミュニティーを確立することである。ラテンアメリカ民主化の基盤がこれまでになく広がったことによって、この目的を達成できる可能性が高まっている。(69頁)