栗林忠道中将の最期(硫黄島の戦い)

「玉砕総指揮官」の絵手紙 (小学館文庫)

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昭和20年3月17日24時発 栗林兵団長訣別の電文

 戦局最後の関頭に直面せり 敵来攻以来麾下将兵の敢闘は真に鬼神を哭しむるものあり 特に想像を越えたる物量的優勢を以てする陸海空よりの攻撃に対し宛然徒手空拳を以て克く健闘を続けたるは小職自ら聊(いささ)か悦びとする所なり

 しかれども飽くなき敵の猛攻に相次で斃れ為に御期待に反し此の要地を敵手に委ぬる外なきに至りしは小職の誠に恐懼に堪へざる所にして幾重にも御詫申上ぐ 今や弾丸尽き水涸れ全員反撃し最後の敢闘を行はんとするに方(あた)り熟々(つらつら)皇恩を思ひ粉骨砕身も亦悔いず 特に本島を奪還せざる限り皇土永遠に安からざるに思ひ至り縦(たと)ひ魂魄となるも誓って皇軍の捲土重来の魁たらんことを期す 茲(ここ)に最後の関頭に立ち重ねて衷情を披瀝すると共に只管(ひたすら)皇国の必勝と安泰とを祈念しつつ永(とこし)へに御別れ申上ぐ

 尚父島、母島等に就ては同地麾下将兵如何なる敵の攻撃をも断固破摧し得るを確信するも何卒宜しく申上ぐ

 終りに左記駄作御笑覧に供す 何卒玉斧を乞ふ

   左記

 国の為重きつとめを果し得で 矢弾(やだま)尽き果て散るぞ悲しき

 仇討たで野辺には朽ちじ吾は又 七度生れて矛を執らむぞ

 醜草(しこぐさ)の島に蔓(はびこ)るその時の 皇国の行手一途に思ふ

 

栗林忠道、吉田津由子編『「玉砕総指揮官」の絵手紙』小学館文庫、2002年、pp.235-236より)