安保論争

安保論争 (ちくま新書)

細谷雄一『安保論争』ちくま新書、2016年より

「安保関連法に反対する人々は、平和を求めて、戦争に反対している。安保関連法を成立させた安倍政権もまた、同じように、平和を求めて、戦争に反対している。どちらかが間違っているのだろうか。あるいは、どちらも間違っていないのだろうか。

 前者は、今回の法律を成立させれば、アメリカが将来に行う戦争に日本が巻き込まれて、国民の安全が脅かされると懸念している。他方で、後者は現状の安保法制では十分に国民の生命を守ることができず、状況が悪化している東アジアの安全保障環境下で平和と安定のために日本が責任ある役割を担うことができないと考えている。

 なんと奇妙なことであろうか。安保関連法に反対する人も、賛成する人も、同じ目的を抱いている。ところが今回の安保関連法をめぐる論争は、双方がともに十分に相手の論理を理解することができない中で、相手を侮蔑し、批判している。実質的な対話が欠如している状態が続いているのだ。同じ目的を共有しながら、これほどまでに激しい反目が続いている。両者の間にそのような溝が横たわっているのは現在の日本を取り巻く安全保障環境をめぐる認識が異なるからである。まずは、その溝が何なのかを理解して、その溝を埋めない限り、不毛な論争が持続するであろう。」(pp.31-32)