「ある個人の活躍や能力がすぐに「ユダヤ人」として括られることが問題だ」

〈文化〉を捉え直す――カルチュラル・セキュリティの発想 (岩波新書)

渡辺靖『<文化>を捉え直す――カルチュラル・セキュリティの発想』岩波新書、2015年より

「本来、多様な属性を持つ個人を「イスラム教徒」という大きなカテゴリーのみで括ることはフェアなのか。私が日本の大学の学部生だった一九八〇年代半ば、日本ではいわゆる「ユダヤ本」がベストセラーになっていた。ユダヤ人の活躍や優秀さを称え、その秘訣を解き明かすというもので、ほとんどユダヤ礼賛に近かった。しかし、在京のイスラエル大使館は「反ユダヤ主義」の一種だとして懸念を表明していた。不思議に思い大使館の知人に訊ねたところ、「ある個人の活躍や能力がすぐに「ユダヤ人」として括られることが問題だ。今は称賛されているが、いつ反転するか分からない。そのときの恐さが私たちには歴史を通して身に染み付いている」と語っていたのが印象的だった。似たような乱暴な括り方を「イスラム教徒」にも当てはめているのではないか」(p.vi-vii)