性犯罪者の特徴とAVの影響

性暴力

読売新聞大阪本社社会部『性暴力』中央公論新社、2011年より

 

「「性暴力は、性欲だけでは説明できない」。少年鑑別所の専門官や刑務所の矯正処遇官を務めてきた藤岡淳子・大阪大教授(非行臨床心理学)は、加害者の心理をこう指摘する」(p.73)

 

「自分に対する少年たちの振る舞い方に、共通点があることに気づいた。人を見くびった態度、にらみつけるような視線、わざと発する下品な言葉……。みな自分を誇示し、虚勢を張っている。そんな相手と信頼関係を築き、少しずつ本音を引き出すうち、彼らの「弱さ」「自信のなさ」「思うようにならない日常への鬱憤」が見えるようになってきた。虚勢は、そんな自分を隠すための行動だったのだ。自分よりも弱い相手である女性に対する性加害も、その延長線にある――。藤岡教授はそう確信するようになった」(p.73)

 

「藤岡教授は、加害者の心理をこう分析する。「性暴力とは、誰かを支配したい、強さや男らしさを誇示したい、ダメな自分を忘れ、尊敬や愛情を得たい……そんな欲求を、性という手段で自己中心的に満たそうとするもの。強姦犯は、特に怒りや支配欲が強い」」(p.74)

 

警察庁科学警察研究所で主任研究官を務め、少年非行などを研究してきた内山絢子・目白大教授(心理学)が、性犯罪の容疑者553人(平均年齢28.7歳)と、無作為に抽出した一般男性688人を比較した調査がある」(p.74)

 

「「女性は『嫌だ』と言っても、本当はそんなに嫌がっていない」は容疑者が21.1%(一般2.5%)、「セックスしてしまえば、女性は自分のものになる」が13.5%(同0.9%)、「女性は誰でも強姦されてみたいと思っている」が4.5%(同0.6%)――。各設問に賛成した割合は、性犯罪の容疑者と一般男性との間では、大きな開きがあった」(p.74)

 

「このように現実を曲げてとらえる「ゆがみ」は、性犯罪者の特徴の一つだ。藤岡教授は「成人の性犯罪者の半数は少年時代に性犯罪に手を染めている。最初はのぞきや痴漢でも、欲望を満たすにつれ、ゆがみが深まり、犯行がエスカレートする」と指摘する」(p.74)

 

警察庁科学警察研究所科警研)が1997~98年に、強姦や強制わいせつ容疑で逮捕された容疑者553人を対象に行ったアンケート調査では、33.5%が「AVを見て自分も同じことをしてみたかった」と回答した。少年に限ると、その割合は49.2%に跳ね上がった」(p.79)

 

「好んで視聴するAVのジャンルをたずねたところ、「ロリコン」「SM」などが3.2~17.6%なのに対し、「強姦」は42.2%と圧倒的に高かった。強姦の被害に対する認識については、26.5%が「1000万円の銀行強盗より軽い」、12.3%が「腕を一本折る傷害より軽い」、7.8%が「交通事故でけがするより軽い」と答え、性犯罪を他の犯罪より軽く見る人が少なからずいた。また、35.6%が「セックスは、いくらしても減らない」と考えていた。性行為自体を軽々しく考え、強姦によるダメージを考慮する意識も乏しい傾向が浮かび上がった」(pp.79-80)

 

「強姦シーンを描いたAVなどの「暴力的ポルノ」と性暴力との因果関係についての評価は、定まっていない。「欲求を発散させる効果があり、犯罪抑止につながる」とする説がある一方で、1980年代に米国で行われた実験では、「視聴者の攻撃性を増長させる可能性」が報告されている」(p.80)

 

「実験では、男性被験者に▽暴力的でないポルノ映像▽暴力的ポルノ▽性的な要素のない暴力映像――のどれか一つを見せた後、サクラの女性に対し、電気ショック(実際には通電していない)を加える機会を与え、その回数や強度を調べた。平均強度を映像条件ごとに比べると、暴力的ポルノを見た場合の強度が最も高く、性的要素のない暴力映像、暴力的でないポルノ映像の順に続いたという」(p.81)

 

「学者や出版編集者らでつくるポルノ被害調査団体「ポルノ・買春問題研究会」代表の中里見博・福島大准教授は、「女性をモノ扱いし、女性がレイプを楽しんでいるかのような描き方をした作品は多い。見続けているうちに『レイプは大したことではない』と、性暴力を容認する価値観に偏ったり、女性への攻撃性が増大したりする危険性がある。視聴者は“理性的な大人”ばかりではない。未成年への影響も過小評価してはならない」と強調する」(p.81)