兵士の戦闘力喪失(降伏・負傷)をロボットは認識できるか

無人の兵団――AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争

ポール・シャーレ(伏見威蕃訳)『無人の兵団―AI、ロボット、自律型兵器と未来の戦争』早川書房、2019年より。

※下線は引用者

ジュネーヴ諸条約は、彼もしくは彼女がa)捕らえられるか、(b)“降伏の意図を明確に示す”か、(c)“怪我か病気で意識を失っているなど、無力化され、自分の身を護れない”ことを、戦闘力喪失と規定している。(a)の識別は、いたって単純なように思える。軍は、自律型兵器が味方をターゲットにするのを防がなければならないのとおなじように、管理下にある捕虜を自律型兵器がターゲットにするのを防ぐ能力を持たなければならない。しかし、(b)と(c)はそれほど単純ではない。(pp.348-349)

 

軍は白旗や両手をあげるというような合図を、降伏を示すものとして昔から採用してきた。現在のテクノロジーなら、機械はそういう物体や仕草は識別できる。ただ、降伏の意図を認識するには、物体を識別するだけではじゅうぶんではない。(p.349)

 

自律型兵器に攻撃をやめさせるために、兵士が降伏するふりをするという例を、スパローは引き合いに出した。降伏を偽るのは、戦時国際法では“背信”と見なされ、違法にあたる。降伏を装いながら戦いつづける意図がある兵士は、戦闘員でありつづけるが、降伏が本当か偽りかを見分けるには、人間の意図を読み解かなければならない。(p.349)

 

戦闘力喪失の第三の分類――能力を失って戦えなくなった兵士――の場合も、降伏の認識とおなじような問題が生じる。動いていない兵士を戦闘力を喪失したと単純に分類するだけでは、じゅうぶんとはいえない。まったく動いていないわけではないが、戦うことのできない負傷兵もいるだろう。それに、れっきとした戦闘員が、ターゲットにならないように、兵器をだまそうとして“死んだふり”をすることもある。降伏の認識とおなじで、負傷で戦闘力を喪失したかどうかの判断には、人間の意図を読み解く能力が必要とされる。負傷しているのがわかっただけではだめだ、負傷兵でも戦いをつづけられる。(p.350)

 

戦時国際法では、敵に降伏の機会をあたえる義務はない。発砲する前に、「最後のチャンスだ。投降しろ、さもないと撃つ!」という必要はない。しかし、降伏しようとするのを無視するのは違法だ。白旗や降伏という一般的概念は、前世紀から存在していた。一九〇七年のハーグ条約は、この概念を国際法に成文化し、「助命を許さないと宣言することは……厳に禁じられる」と宣言した。兵士が戦闘力を喪失したことを認識できない兵器の使用は、現代の戦時国際法に違反するだけでなく、一〇〇年も守られてきた戦争の規範を侵害することになる。(p.351)