お手軽書評

あまり気負いすぎて詳細な書評を書こうとすると、いつまで経っても更新が滞ったままになってしまうので、たまには簡単なコメントのみで一気に数冊を紹介するという形式を取ってみたいと思います。

あくまで一言コメントなので、少し偏った主観的な書評になるかも知れませんが、「世の中にはこんな面白い本があります」ということで量のほうを重視することにします。


フィリップ・ゴーレイヴィッチ『ジェノサイドの丘―ルワンダ虐殺の隠された真実(上)』

人間はどこまで残酷になれるのか。読んだ直後、帰り道で暗闇が怖くなりました。映画『ホテル・ルワンダ』も合わせて観ることをおすすめします。
以下の箇所が特に印象的だった。

一九九四年のルワンダを、外の世界は崩壊国家がひきおこす混乱と無政府状態の典型だと見なしていた。事実は、ジェノサイドは秩序と独裁、数十年におよぶ現代的な政治の理論化と教化、そして歴史的にも稀なほど厳密な管理社会の産物だったのだ。(上巻、117頁)

ルワンダ大虐殺は、極めて合理的かつ計画的に創り出されたものであったということが恐怖を倍加する。それは人間の狂気が生み出したのではなく、人間の理性が生み出したものだった。


ロルフ・ユッセラー『戦争サービス業』

著者はドイツのジャーナリストで非常に緻密な取材に基づいて書かれているけれども、安全保障や紛争解決の専門家ではないので、どちらかというとPMCについてネガティブな面にのみ焦点が当てられているきらいがある。より広い視野からこの現象を見る必要があるのではないか。

それでも、平和構築の現場で進んでいる「軍事の民営化」とは何なのかを知るための導入としてはとてもいい本だとと思う。「地獄の沙汰も金次第」は現実のことかも知れない。


苅谷剛彦『知的複眼思考法』

非常によくできた社会調査の入門本である。
日本の大学院ではまだちゃんと方法論を学ばせるところは非常に少ないけど、これは院のゼミなどで必読文献にすればいいと思う。


佐野眞一『この国の品質』

「劣化が止まらない日本という国と日本人」の告発書。
非常に刺激的で、これこそがノンフィクションジャーナリズムだと感じさせる。
「すぐれたノンフィクションは、現代を語るすぐれた民俗学になる。」(佐野)
今こそ「読む力」の回復が必要とされている。


竹中千春『世界はなぜ仲良くできないの?』

非常にわかりやすい語り口で、国際政治のことなんか全く知らない人でも十分読める内容。
子供の素朴な質問に答えられないアカデミズムは、おそらく無価値である。


Oliver Ramsbothan, Tom Woodhouse, Hugh Miall. Contemporary Conflict Resolution: The prevention, management and transformation of deadly conflicts, 2nd edition.

Peter Wallensteen. Understanding Conflict Resolution: War, Peace and the Global System, 2nd edition.

アメリカでも日本でも、紛争解決論は国際関係論の中ではまだマイナーな位置にある。
これらの文献に類する邦語文献は知る限りでほとんどない。なので、紛争解決・平和構築の理論を学びたければどうしても英語文献に頼るしかないのが現状である。