2021-01-01から1年間の記事一覧

「知ること」と「考えること」

池田晶子『知ることより考えること』新潮社、2006年より。 『知ることより考えること』とは、決して知ることの否定ではありません。考えるとは、本当のことを知るために考えるという以外ではあり得ない。しかし、きょうび「知る」とは、外的情報を(できるだ…

「思わせ人生」(池田晶子)

池田晶子『知ることより考えること』新潮社、2006年より。 いわゆる「ハウツー本」のしょうもなさについては、以前にも書いた。 「頭がいい人、悪い人のどうのこうの」とか、「デキる男はああでこうで」とか、そんな本ばかりが売れているけど、そんなもの読…

「SNSで子どもの悪口を晒す親の裏切り」(Yahoo! Newsより)

www.yahoo.com 以下、記事より引用。 「娘が自分に書いた怒りの手紙をFacebookに載せて、娘が愚かで過剰反応していると書く母親」 「10代の息子のひどい成績通知書を載せて息子のダメっぷりをからかう母親」 「子どもが自分に私的に書いた手紙や、子どもが知…

「あなた自身がつくったこの無関心な世界によって、あなた自身も誰かに空気扱いされている」(村本大輔)

村本大輔『おれは無関心なあなたを傷つけたい』ダイヤモンド社、2020年より。 志村けんさん以外でもたくさんの人たちがコロナで亡くなり、テラスハウスの女の子以外でもたくさんの人たちがネットの誹謗中傷で命を断っている。 知っている人が死なないと意識…

「大人というものはどんなに苦労が多くても、自分のほうから人を愛していける人間になること」(いわさきちひろ)

chihiro.jp 人はよく若かったときのことを、とくに女の人は娘ざかりの美しかったころのことを何にもましていい時であったように語ります。けれど私は自分をふりかえってみて、娘時代がよかったとはどうしても思えないのです。 もちろんいまの私がもうりっぱ…

「情報とは誰かの痛みだ」(村本大輔)

村本大輔『おれは無関心なあなたを傷つけたい』ダイヤモンド社、2020年より。 僕たちは、よくニュースで「情報」を得るとか、熊本の被災地の「情報」を教えてとか、よく「情報」という言葉を使う。テレビや新聞、ネットニュースからも「情報」を得る。 僕が…

「死ぬことと生きることは同じ」(金子哲雄)

金子哲雄『僕の死に方:エンディングダイアリー500日』小学館文庫、2014年。 友人に教えてもらって読み始めた本書。面白くて一気に読了してしまった。金子さんの死の受け入れ方がもう見事としか言いようがない。もちろんそれは周りの方々にしかわからない苦…

「「あすなろ」とは井上氏の人間愛の象徴」(亀井勝一郎)

亀井勝一郎「『あすなろ物語』について」(井上靖『あすなろ物語』新潮文庫、1954年)より。 やがて人間は一つの諦念に達するようである。「樹木は伸びても天に達しないことになっている」というのがそれである。「あすなろ」の悲しみは、永久に檜になれない…

「いつまでもデブと思うなよ」(岡田斗司夫)

岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』新潮新書、2007年より。 ダイエット法で成功した人は、二〇〇人のうち一〇人。つまり成功率は五%。 この場合の”成功”というのは、いちおう「目標体重に達した人」という意味だ。一〇〇人のうち九五人が目標体重に達…

「完璧な読書などない」(千葉雅也)

千葉雅也『勉強の哲学:来たるべきバカのために』文藝春秋、2017年より。 読書の完璧主義を治療するにあたって、フランスの高名な文学研究者であるピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫、二〇一六年)は、ひじょ…

生命礼讃の近代主義への対峙(西部邁)

西部邁『死生論』ハルキ文庫、1997年より。 物質的な繁栄のなかで現代人は退屈や焦燥といった類の心理的葛藤に苛まれている。そうならば、ことのついでに、近代そのものを批評するという文脈で、しかもその批評を実行につなげるという脈略で、簡便死というイ…

自分の自由は他人の自由に依拠している(サルトル)

他人を拘束しようとする人は自分をも不自由にしている。サルトルは生涯のパートナーだったボーヴォワールとの関係において自由を実践してみせました。ただ、二人とも嫉妬と全く無縁というわけではなかったことが本書で書かれています。 「女性を哲学的に考え…

尖閣問題についての日本側からの英語論文が少ない(松井芳郎)

松井芳郎『国際法学者がよむ尖閣問題』日本評論社、2014年より。 ※強調・下線は引用者 まったくの付け焼刃の論文の寄稿を承諾したのは、宜蘭シンポジウムの準備の過程で、中国側にはこの問題に関する英語論文が多いのに対してこれに関する日本人の欧文論文は…

「復員兵の子」の仕事(蘭信三)

蘭信三「「帝国崩壊と人の移動」研究への道程」上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科国際関係論専攻紀要『コスモポリス』NO.15(2021)より。 https://dept.sophia.ac.jp/g/gs/ir/wp-content/uploads/2021/03/99d316d8517b62a4abdca3a5e01caae6.pdf…

自分は頑張っているという意識は自分も他人も疲れさせる(西部邁)

西部邁『死生論』ハルキ文庫、1997年より。 ※強調・下線は引用者 生の活力を奮い起こしていると意識することが自分を疲れさせる因となる、ということに気づかないほど私は莫迦ではない。人のやみくもに頑張っている姿は、えてして、他人のみならず自己をも困…

死を語る際に見られる表現上の甘え(西部邁)

西部邁『死生論』ハルキ文庫、1997年より。 ※強調・下線は引用者 物語を含め人間の推論過程にはかならず前提がなければならず、そしてその前提は、数学や(ある種の)詩のように高度の抽象に達しているものは別として、かならず意味さらには(意味の制度化さ…

「知識人は「言葉」という矛と「ルール」という盾をもって馳せ参ぜよ」(西部邁)

西部邁『死生論』ハルキ文庫、1997年より。 ※強調・下線は引用者 伝統解体を率先したのは知識人であり、その知識人が「自然」と「情愛」に溶け込むようにして死にたいものだと宣うている。これはあまりにも虫のよい言説というほかない。知識人にたいしては、…

「自分自身が人生の問いに向き合っていない人は、教壇に立つ資格はない」(諸富祥彦)

諸富祥彦『教師の資質―できる教師とダメ教師は何が違うのか?』朝日新書、2013年より。 ※強調・下線は引用者 子どもたちは、いじめのアドバルーンをさりげなく揚げて、「その一瞬に教師がどう出るか」を見て、教師の“本気度”を試しています。 たとえば、授業…

「言葉とは交換価値ではなく絶対的な価値」(池田晶子)

池田晶子『41歳からの哲学』新潮社、2004年より。 ※強調は引用者 言葉なんて、タダだし、誰でも使えるし、世の中は言葉だらけだし、なんでそんなものが価値なのだと、人は言うだろう。しかし、違う。言葉は交換価値なのではなくて、価値そのものなのだ。相対…

「傍観者の視線が逸脱を増幅させる加害要因にもなりうる」(徳岡秀雄)

作田啓一・井上俊編『命題コレクション社会学』筑摩書房、1986年より。 11.ラベリングと逸脱(H・ベッカー他) 1.人が逸脱者というラベルを貼られるのは、逸脱行為のゆえにというより、社会的マジョリティによって定められた同調・逸脱に関するルールが恣…

「世の中には、世の中には役に立たないことをする人が必要」(池田晶子)

池田晶子『41歳からの哲学』新曜社、2004年より。 ※強調・下線は引用者 学問というものが、本来、役に立たない金にならないのは当然なのである。また、ある意味でそれが閉鎖的に見えるのも、当然なのである。世の全体が、役に立つこと金になることを価値と信…

「自分を認めるために他人に認めてもらう必要はない」(池田晶子)

池田晶子『41歳からの哲学』新曜社、2004年より。 ※強調・下線は引用者 経済効率第一主義と対になるのは、情欲獣欲第一主義である。なんと貧しい我々の文明。文明など知ったことか。居直ってもダメである。空しいのはあなたである。 出会い系にせよ、ネット…

「第三者から「生きる意味」の説明を求められる筋合いはない」(荒井裕樹)

荒井裕樹『障害者差別を問いなおす』ちくま新書、2020年より。 ※強調・下線は引用者 相模原事件の被告人は、重度障害者は不幸を作り出すことしかできず、意志疎通のできない障害者は「人間」とは見なしていない旨の発言も報じられています。 この被告人は、…

障害者殺しの思想

横田弘『障害者殺しの思想【増補新装版】』現代書館、2015年より。 高度経済成長が謳われている時は金に任せて巨大コロニーを造り上げ、生産力の可能な「家庭」を守るために次々に障害者を送り込み、ひとたび不況、インフレが起れば「福祉見直し論」をブチ上…

「知識を求める心が、愛情を求める心を排除してしまうことがあまりにも多い」

ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を[新版]』ハヤカワ文庫、2015年より。 この小説に出てくるあの光景、皿を落として割ってしまった知的障害のある給仕を食堂(ダイナー)の客たちがあざわらったとき、チャーリィが激昂したあの場面を思い出していた…

読書の価値(森博嗣)

森博嗣『読書の価値』NHK出版新書、2018年より。 世の中に、本というのは「無数」に存在している。実は有限なのだが、個人が読める量では全然ない。人生は多めに見積もっても三万日だから、毎日一冊読んでも、僅か三万冊しか読めない。だいたい国内では、平…

陰翳礼讃(谷崎潤一郎)

陰翳礼讃 作者:谷崎潤一郎 発売日: 2019/01/29 メディア: Kindle版 最近の若者たちの中には、自分のことを「陰キャ」と呼ぶことでうまく他人とコミュニケーションをとれない自分のことを慰めようとしたり、自分の部屋に一人こもってネット動画をずっと見てい…

昭和の女中さんの回想

中島京子『小さいおうち』文春文庫、2012年より。 快活で、いつもお幸せそうに振る舞っていらしたけれども、奥様の最初の結婚は、幸福ではなかったといえるだろう。 最初のご亭主は、そこそこの会社にお勤めのサラリーマンという話だったが、わたしが入った…

「人間の愚劣さも崇高さも両方を知るべき」(上野千鶴子)

上野千鶴子『発情装置:エロスのシナリオ』筑摩書房、1998年より。 ※強調は引用者 「援助交際」の女の子たちの現実をよく知っていそうに見える宮台くんの言い分は、そんなことしてると男にたかをくくるようになるよ、人生をみくびるようになるよ、というきわ…

「人間機械の絶望がファシズムの政治的目的を育てる豊かな土壌」(E. フロム)

エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』東京創元社、1951年より。 ※下線・強調は引用者 われわれの願望――そして同じくわれわれの思想や感情――が、どこまでわれわれ自身のものではなくて、外部からもたらされたものであるかを知ることには、特殊な困難がともな…