「完璧な読書などない」(千葉雅也)
千葉雅也『勉強の哲学:来たるべきバカのために』文藝春秋、2017年より。
読書の完璧主義を治療するにあたって、フランスの高名な文学研究者であるピエール・バイヤールの『読んでいない本について堂々と語る方法』(ちくま学芸文庫、二〇一六年)は、ひじょうに役に立つ本です。この本でバイヤールは、多様な読書を肯定しています。
読書と言えば、最初の一文字から最後のマルまで「通読」するものだ、というイメージがあるでしょう。けれども、ちょっと真剣に考えればわかることですが、完璧に一字一字すべて読んでいるかなど確かではないし、通読したにしても、覚えていることは部分的です。
通読しても、「完璧に」など読んでいないのです。
ならば、ここからだんだん極論へ行けば、拾い読みは十分に読書だし、目次だけ把握するのでも読書、さらには、タイトルを見ただけだって何かしらのことは「語る」ことができる。
そもそも人から「本当にちゃんと読んだのですか」と聞かれることはまずありません。というのはなぜか。誰しもが、自分の読書が不完全であることが不安であり、そこにツッコミを入れられたくないと思っているからです。(pp.179-180)