生命礼讃の近代主義への対峙(西部邁)

死生論

西部邁『死生論』ハルキ文庫、1997年より。

 

物質的な繁栄のなかで現代人は退屈や焦燥といった類の心理的葛藤に苛まれている。そうならば、ことのついでに、近代そのものを批評するという文脈で、しかもその批評を実行につなげるという脈略で、簡便死というイメージ・プランを持ちだすことにより、ニヒリズムに首まで浸かりつつ、毒をもって毒を制するの流儀で、近代のニヒリズムに対峙することができる。その種の会話に面白味を感じないものは、おそらく、頭のてっぺんまでニヒリズムに浸かり、精神的にはすでに死んでいるのであろう。(p.80)