歴史データとの対話

修士1年の時に読んでおきたかった論文。
野宮大志郎「社会学における歴史的探究:データとの対話」『COSMOPOLIS』No.2(2008年)47-50頁より抜粋。

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「その端緒においてまさに社会学の「典型的」なフォーマットであった歴史的研究方法は、20世紀後半に入り一時衰退したかのように見えた。その背景には、歴史的研究法以外の方法、例えばサーベイ・リサーチ法など様々な研究手法が発達したことがあった。また、「科学」の名のもとに客観性を社会学に対して賦与しようとする考え方が、現象の時代的特殊性を排除した一般法則の発見、という動きにつながったこともあげられよう。」

「しかし今日では、歴史的研究はむしろ有力な社会学的研究方法の一つとして見直されてきている。ひとつには、時間と空間を越えた社会の一般法則の発見というナイーブな科学信仰に対して人々が疑義を抱きはじめたということがあげられる。また、ある程度の一般化を試みる研究に対して、批判的に評価したり、また補足的な説明をおこなうという場合、歴史的研究方法は非常に有効な手段となる。」

「過去の社会現象に関する記録やデータを一括して歴史データと呼ぶ。歴史データは主に記録目的や他の研究用途のために作成されたデータである場合が多い。歴史的研究を行なおうとする者は、この多様なデータをもとに何十年・何百年ときままに時間をさかのぼることができる。さらに、利用できるデータの種類は非常に多い。政府刊行物・法廷文書・新聞・雑誌・そして手紙・日記・香典帳・宗門帳・墓石・落書きにいたるまで、およそあらゆる種類の「記録」から必要な情報を引き出してくることが可能なのである。この意味で、歴史データは自分の研究関心と過去の社会現象との接点を豊かにしてくれる媒介物なのである。」

「どの研究でも同じなのだが、実際にデータにアクセスする前に二つのことをしておかねばならない。まずは自分の研究対象を決め、他の研究者が蓄積した過去の研究成果にあたっておくこと、そして、自分の問いを明確にし、できればその問いに対する仮の答(仮説)を提示しておくことである。先行研究は、どのようなデータが実際に利用可能なのか、またそれらのデータを用いてどのような研究が可能なのかを我々に教えてくれる。また、自分の問いや仮説を考えておけば、自分がどのようなデータを必要としているのかが明確になる。」

「データを検討した結果、データの信憑性に対して確信が得られないこともある。このような場合はどうするか。データを使用しないと決断することだ。確かに残念ではあるが、誤った研究は研究者個人にとっても有益なものではないし、学問全体の知的生産のためにもマイナスなのである。手に入ったデータが使用できないとすれば、研究者はまた新しいデータを探すか、新しい視点で研究対象へアプローチするかしなければならない。」