「就職で苦しむ娘を励ましたい」

朝日新聞(2013年4月6日)土曜版be「悩みのるつぼ」(人生相談コーナー)より。
回答者:上野千鶴子社会学者)

就職で苦しむ娘を励ましたい

相談者:女性 40代

40代の母です。
娘は比較的頭がよく、大学は旧帝大のひとつの理系学部に進みました。ただ、高3時点では将来への展望がなく、単に理系科目が好き、と、文系学部よりは理系学部の方が就職がいいらしいという先生のアドバイスを聞いての選択でした。

大学での勉強は、彼女にとってまったく興味を持てるものではなかったようです。転部しようと本気で考えた時期もあったようですが、結局そのまま理系学部にとどまり、夏休みもなく研究室通いをしました。

高校で必死に勉強して入った大学で難解な授業にも耐え、手を抜かず頑張っているのに、彼女は就職活動にことごとく失敗しています(掲載される頃はわかりませんが)。

早くから企業研究に取り組み、本当によく頑張って、最終面接までもいくつか行きましたが、決まりませんでした。周りで大学でバイトや遊びを楽しみ、就職活動も数社受けただけで第一希望に決まった学生の話を耳にすると、自分が一生懸命やってきたことは何だったんだろう、と思うようです。

大学まで頑張ったことは絶対に役に立つ、苦労してて損はない、あなたの人生は間違ってなんかいないよ、誇らしく思える日が必ず来る、と言ってやりたいのですが、いい言葉が見つかりません。何と声をかけてあげればいいのでしょうか。

あなたが親から卒業してください

回答者:上野千鶴子社会学者)

困りましたねえ。就職にお困りなのはあなたの娘さんであって、あなたご自身ではありません。これが娘さんからのご相談なら親身になれるんですが。

まず問題なのは、娘に代わって娘の問題を相談しようという母親のあなたの姿勢です。娘の問題は娘の問題、娘自身が解決するしかありません。放っておきましょう・・・で終わりですが、どうやらそれではすまない気配が。あなたと娘さんのあいだには問題がありそうですね。

ただ頭がいいというだけの理由で旧帝大系の大学へ進んだのですって? これといってやりたいこともないのに、得意科目と就職だけを考慮して理系を選んだとか。大学での勉強には興味を持てず、周囲の学友のようにバイトや遊びを楽しんだわけでもない。好きでもない研究にまじめに熱心に取り組んでがんばったのに、就活がうまくいかない・・・かわいそうなのはあなたではなく娘さんです。

就活を甘く見てはいけません。最終面接で人事の担当者が見るのは、本人の現在の能力以上に、これから先ののびしろ。意欲と関心を欠いた人材には手を伸ばせないでしょう。

ところであなたご自身のお悩みは、困ってる娘を見ているのがつらい、どんな言葉をかけてやればよいか、というご質問。「頑張ったことは役に立つ、苦労してて損はない」と言ってやりたいが、その言葉をのみこんでいるあなたは賢明です。頑張ったことが役に立たない現実にたった今娘さんは直面しているからです。

思うに彼女はこれまでずっと、親と教師の言うことを聞くよい子だったのでしょうね。就活は多くの学生にとって人生最初の壁。もはや成績だけがモノを言うわけではない、社会人への入り口です。彼女は自分が何をしたいのか、これまでの人生は何だったのか、迷っていることでしょう。でもまだ20代。理系が向いているかどうかもわからないし、これからいくらでも軌道修正は可能です。

あなたが娘さんに言うべきことはたったひとつ。「あなたの人生はあなたのものよ」

娘さんを自由にしてあげましょう。こんな相談を娘の代わりに投稿するのはやめましょう。そして本当に困ったときには助けてあげようと、距離を置いて見守ってあげましょう。親にできるのはそこまで。まずあなたが親から卒業することです。