立花隆『知のソフトウェア―情報のインプット&アウトプット』書評
- 作者: 立花隆
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1984/03/19
- メディア: 新書
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しかし立花の論旨の他と違う点は、インプットとアウトプット「の間」、つまりインプットからアウトプットに移る際の無意識の記憶力に最も重きを置いているところである。一般のインプット論やアウトプット論が、前者が読書法やカードの取り方、後者が文章作法などに代表されるような技術論であるのに対し、立花はアウトプットの最中に次から次と出てくる閃きに着目する。
知っている言葉を言えと言われて言える言葉の数と、国語辞典を見て知っている言葉の数には何十倍、何百倍という差が存在するように、意識的な記憶力と無意識的な記憶力のあいだにもとてつもない差が存在している。それはアウトプットを行う際にも同じことで、書く前に書くと決めたものと、書いている最中にどんどん浮かび上がってくるアイディアの幅の差は計り知れず、書くと決めていた型どおりに文章がまとまることはほとんどあり得ない。
インプットに関して言及している部分が最も示唆に富むものだった。情報処理のスピードを高めるためには、技術的な方法論ではなく、難解な文章を繰り返し読むことで意味情報を獲得する訓練をした方が効果的だと述べている点や、知的生産においては、インプットとアウトプットの比が大きければ大きいほどよく、それは作品に詰め込まれた情報のベースが大きいことを示す、と言っているところに特にうならされた。
ただし、インプットとアウトプットの比が単に大きいだけでいいはずはない。最終目的はアウトプットなのであって、常日頃からアウトプットを試みる習慣を身につけていなければならないはずだ。もしアウトプットをめぐる不断の努力と環境整備を怠れば、たとえ膨大なインプットをこなしていたとしても、それでは単なる読書家に堕してしまうだろう。立花の主旨も「とりあえずアウトプットしてみることだ」であったと自分は思う。
今の自分にとって全く時宜にかなった書であった。