志賀直哉『和解』(新潮文庫、1949年)書評

sunchan20042005-01-20

第一子の早すぎる死による絶望感と、第二子の誕生による生に対する喜びという対照的な経験が、主人公の父親に対する姿勢の変化と時を同じくしている。前者の経験が父を始めとする家の者全てに対する憎悪を高めたのであり、逆に後者の経験によって「自分には何か感謝したい気が起った」(69頁)のだった。

言うまでもなく本書の中心テーマは父子間の反目と和解だが、第一子が死に至るまでの過程の生々しい描写は、同じ年頃の子供を持つ親なら涙なしには読むことができない。また、絶望感に苛まれた時に、周りにいて気遣ってくれる親友たちの存在は、この主人公に限らず生の喜びを支える重要な要素となるものだろう。

本書の主旨からすれば瑣末なことかも知れないが、「母」の父と主人公に対する態度が気になった。もちろんこの女性は主人公の実母ではないが、自分の夫(つまり主人公の父)と主人公に対する態度では、明らかに父の肩の方を持っている。二人の間で板挟みになっているのを主人公は同情するのだが、実際には「息子」を気遣いながらも、最終的に夫を全面的に擁護する。この辺がどうも自分自身の母親と重なって見えてしまって、読んでいる間もずっと気になっていた。その場合息子は、不満の意思表示をすべきなのだろうか、それとも諦めるべきなのだろうか。自分の場合は間違いなく――かつ好意的に――諦める。