野村達朗『「民族」で読むアメリカ』書評

「民族」で読むアメリカ (講談社現代新書)

「民族」で読むアメリカ (講談社現代新書)

アメリカという国が、貧しい大量の移民を受け入れることで成長を遂げてきた国であることが改めて確認できる書である。初めはイングランド人が、続いてスコットランド人、アイルランド人、ドイツ人、フランス人が、信仰の自由や経済的自立を夢見て新大陸へ渡ってきた。現在でも、アジア系やラテンアメリカを中心にして、毎年大量の移民がアメリカに入国している。

はじめイギリスの植民奨励策の背後にあったのは、社会問題になっていた大量の失業者・浮浪者を移住させ、本国の負担を軽減したいという意図だった。イングランドは余剰人口をもっていると信じられていたのである。ところがイングランド経済が順調に発展し始めると、人口は「負担」というより、国力の基礎となる「労働力」として意識されるようになり、イギリス政府は母国からの人口の喪失を嫌うようになった。そしてイングランドの生活が向上すると、植民地への移住者が不足するようになり、植民地の側も非イングランド系移民の流入を歓迎するようになった。こうしてイングランド人以外の者、すなわちスコットランド人、スコッチ・アイリッシュ人、アイルランド人、それにドイツ人、フランス人などの渡来者が増え、植民地白人のエスニック構成がかなり変わっていった。(34頁)

大量の移民が発生するに至る過程には歴史的なパターンが存在する。すなわち、資本主義の拡大による伝統的農村社会の解体と、それに伴う都市への人口集中、さらには都市経済が吸収できない人口の海外への流出、すなわち移民の発生である。

拡大を続ける「近代世界システム」がその内部に世界の諸地域を編入していくにつれて、伝統的な農村社会が解体し、先祖以来の職業と地位を継承できなくなった人々が農村を離れて、都市に流れ込んだ。しかし工業化が十分に展開されていない段階では、都市経済は彼らを吸収できず、そこから国外への大量の移民の流出が生じた。アメリカ合衆国はそのような流出人口を受け入れて人口を膨張させ、成長を遂げてきたのである。(228頁)

このパターンは現在のアジア系や南米系移民にも同じく見られるものだが、アメリカの移民に対する態度が不安定なために、多くの問題を引き起こしている。

移民が明るい未来を夢見て新大陸へやってきた一方で、強制的にアメリカへ連れて来られた「移民」がいた。アフリカ奴隷である。この二つの現象が、実は同じ現象の裏表にすぎないことに驚かされる。

アメリカは封建制度という前史をもたず、「自由な植民地」として出発した。このことは資本主義の発展を促進する条件となった。しかし、人が自由で、豊富で安価な土地が存在する「自由な植民地」に展開したのは、自由な小農民の社会であり、他人のために働く賃金労働者はきわめて少なかった。人々は労働者になるよりも、西部に赴いて自営農民になろうとした。ヨーロッパ人がアメリカに移住した目的、アメリカ人が西部に赴いた理由は、経済的独立を達成し、「プロレタリア化」を免れることにあったからである。だから労働力の入手は困難だった。この問題を解決するための非常手段が、不自由労働力の輸入だった。封建的束縛から自由だったアメリカが奴隷制度を発展させたのは、まさに植民地の自由な条件にあったのであり、白人の自由と黒人の不自由とは、必然的な因果関係によって結びついていたのである。(64頁)

人類史上において革命的な意味をもつアメリカの建国理念とは、こうした裏面の暗い歴史的現実があって初めて完成されたものだと言えよう。