猿谷要『アメリカ合衆国と私たち―1990年代への視点』書評

猿谷要アメリカ合衆国と私たち―1990年代への視点』(朝日選書、1989年)書評

80年代末に、アメリカでリベラリズムが復興することを強く信じていた著者は現在の立場から90年代をどう振り返るだろうか。クリントン政権をどう評価するかによって意見は異なるかも知れないが、いずれにせよ現時点ではアメリカにおける強力なリベラリズムが政治や文化の表面に現れてきているとは言いがたい。60年代から始まった公民権運動がアメリカにあまりに大きな衝撃を与えたために、そこからバランスを取り戻すための期間は長引かざるを得ないとシュレシンジャーJr.は言う。湾岸戦争イラク攻撃による「アメリカ第一主義」の高揚、さらに最近の同時多発テロイラク戦争によって、この「揺り戻し」の期間はさらに長引きそうな気配を見せている。そのような中、我々はリベラリズムをどのように位置づけ、またどう築き直していけばよいのか。本書で著者は、リベラリズムの復興を信じながらも、ではどうそれを築き直していけばよいのかについては言及していない。著者の信念の通り、表面的な保守への回帰の時代でさえも、リベラリズムの基盤となる声なき多数派がアメリカに存在していることは確かだろう。しかし、民主党が対外政策において共和党と大差のない主張をしたり、「アメリカ史のサイクル」を念頭に置いて国内問題への注目が回復するのを待っているような状況では、「強力な」リベラリズムというものは、ますます先細りしていかざるを得ないだろう。小手先の戦略で真のリベラリズムが復活することなどあり得ない。