佐藤健『新編イチロー物語』書評
- 作者: 佐藤健
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/09
- メディア: 文庫
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少年期から現在までのイチローの野球人生を辿る貴重な記録。今ではあれほどクールで動揺しない青年が、高校一年の時ピッチャーをやってひどく打ち込まれ、はじめて野球をやめたいと口にしたというエピソードや、プロ入り二年目で一軍と二軍を行ったり来たりしていた頃に、高校時代の監督に見せた涙など、信じられないような話も本書には書かれている。しかし、イチローがより人間味のある野球選手に見えてきて、以前よりも彼に好感が持てるようになった。
メジャーに行ってから「振り子打法」が消えたイチローだが、その理由は軸足の筋力アップにあると知ってこれもビックリ。ということは、日本のプロ野球で振り子打法をやっていたのは、消極的な理由からだったということなのだろうか。
また、本書の中で重要な位置を占めるのが、イチローの父(通称チチロー)の存在である。イチローの練習に毎日休まず付き合うことで自分の人生を犠牲にしたと書かれている父・宣之が、以下のように語る箇所がある。
私たちの身体は、両親をはじめ、多くの人々、自然の恵みによって生かされている。それだけに、無駄の人生を歩めば、私たちの心を支えているすべてのものも死んでしまうということです(57頁)
こんな説教臭い言葉も、イチローのために全てを捨てた父が語るとやはり凄みがある。子供に対する過剰な期待とかそういうものではなく、この父はイチローが失敗したら自分自身の人生も道連れになる覚悟を決めており、そこには悲壮感すら漂っている。この父親なくして天才イチローの存在はあり得なかった。