ロバート・ホワイティング『日米野球摩擦』書評

日米野球摩擦

日米野球摩擦

日本(人)の縮図・プロ野球に対する警告

野球に限らず、「根性至上主義」をふりかざすことの多い日本のスポーツ界の指導者にとって、「日本の野球選手(高校生も含めて)は練習をしすぎて選手生命を縮めている」と言われれば衝撃を受けずにはいられないだろう。「野球選手はマラソンをすべきではない」(16頁)、ピッチャーが「投げこめば投げこむほど腕を慣らすことができる、などと考えるのは誤りです。練習で腕を疲弊させてはいけません。むしろ甘やかすくらい、大切に扱うべきです」(47頁)と言われればもっと驚くだろうか。

この本が書かれた頃に比べれば、運動生理学もはるかに進歩して、選手自身も各自で医学知識に基づいた練習メニューを考えているはず。にもかかわらず、毎シーズンのように腕をダメにしてしまうピッチャーが跡を絶たないのは、まだまだ本書の警告が必要とされていることを物語っている。

また、本書を読めば、日本のプロ野球が日本人の価値観を象徴しているものであることに気づく。「助っ人ガイジン選手」の表には出ない苦悩は、野球だけではなく、私生活の面でもたびたび表れる。阪神タイガースがあれほどチームに貢献したランディ・バースに対して、これほど酷い仕打ちをしていたなんて本書を読むまでは知らなかった。外国人選手が経験した数々のエピソードを読むたびに、無意識・無神経な日本人の差別感情が浮き彫りになる。これは日本人のスポーツ・ジャーナリストには書けない優れたスポーツ文化論である。