森本敏編『イラク戦争と自衛隊派遣』書評
- 作者: 森本敏
- 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
- 発売日: 2004/03/26
- メディア: 単行本
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ちなみに勉強や読書とは一人でするものですが、その結果として他人と楽しく時には厳しく議論できるとわかっていると、勉強や読書への力の入り方も違ってきます。これからもそういう「関わり」を提供して下さると光栄です。
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2003年に始まったイラク戦争について、国際政治・軍事戦略・戦後復興という複数の側面から緻密に分析した研究書(注がないのでそう見なさない人もいるかも知れないが)。全体を通して記述的(descriptive)な手法に徹しており、その意味で分析的(analytical)な研究書ではない。言い換えるならば、イラク戦争そのものに対する批判的な視点はほとんどなく、現実に起こった戦争とその後の復興支援活動に対して日本はどう対処すべきかという現実的な議論が展開される。この点は編者も意識しているようで、「結果としては、イラク戦争を肯定的に評価する立場から論述することになったことは否定できない」(9頁)と断っている。
しかし、本書が5頁で論じているように、大量破壊兵器の武装解除という当初の戦争の大義は、途中から対テロ戦争へと変化し、そのことがこの戦争の正統性をぐらつかせたことは紛れもない事実である。イラク戦争の大義と、その後の復興支援活動の大義が全く別の問題であるという本書の議論(288〜289頁)には自分も賛成であり、復興支援活動については国連安保理決議1483が成立している。しかしながら、イラク戦争の開始に付いてまわった恣意性は、本書が結論で主張する憲法改正と集団的自衛権の容認という戦後政治最大の懸案の解決に対しては、決定的に不利な影響を及ぼしている。憲法と集団的自衛権の問題を乗り越えるのであれば、やはりこの戦争の大義を批判的に論じることを避けるわけにはいかない。
他方で、『対テロリズム戦争』(中公新書ラクレ)書評で述べたとおり、テロ対策特別措置法(通称・テロ特措法)とイラク人道復興支援特別措置法(通称・イラク特措法)を経て日本の安全保障政策は大きく変化した。この変化がアメリカとの同盟戦略と人道復興支援という国連のお墨付きが与えられている活動に対する日本の関与という点からいって、肯定的な結果をもたらしていることも認めざるを得ないだろう。
脅威の質が大幅に変化を遂げている時代にあって、現在の安全保障戦略にはこれまでの枠組みに縛られることのない柔軟性が必要とされていることは明らかだろう。ただし、「起こってしまったものは仕方ないのだから、その是非についてあれこれ論じるよりもそれに対する現実的な対処法を議論すべきだ」という本書が暗黙裡に持っていると思われる前提は、いくぶん想像力が欠如しているような印象を与える。これは将来に起こり得る新たな戦争についての議論でもあり、やはり「肯定的な評価」だけでは物足りない。
事実関係が事細かに記述されており、このテーマについて論文を執筆しようと考えている学生には使い勝手のある参照文献となるだろう。