つれづれ日記:成績評価に対するクレーム@アメリカ

 春学期も終わって少しだらけた生活をしがちな自分のところへ、この学期に取っていたあるクラスのクラスメイトの一人から、クラスメイト全員宛てに1通のメールが届いた。どうやら、彼は教授が自分につけた成績に納得ができなかったようだ。彼のメールによって初めて知ったのだが、そのような場合は専攻のトップの先生に不満を訴えることができるようだ。しかしそのための条件として、まずは教授本人とコンタクトを取って話し合うことが要求されている。そこでこのクラスメイトはそれに沿ってまずは教授とメールでコンタクトを取り、そこでケリが着かなければ専攻長に訴えるというプロセスに進むというわけだ。

 この授業の評価基準は、①ペーパー、②期末試験、③出席とクラスでの討議への参加度・貢献度、となっている。まあアメリカの大学における一般的なスタンダードだ。このクラスメイトはペーパーでよい評価を得たものの、出席が少し足りないのと期末試験が少し悪かったせいで、最終評価がA−に届かなかったと言っている。しかし彼の主張によれば、何度か欠席があったのと期末試験があまりよくなかったのは、教授自身の授業のまとめ方の悪さに原因があるとして、教授の非を責めている。

 実際のところ、この教授はこの学期中、いろいろと個人的な理由で授業の準備がままならず、予定していた内容をすべてカバーできなかった。教授自身もそのクラスメイトに対する返信メール内でそのことを認めており、クラスメイトは「授業で扱ったのはあまり重要ではない事柄ばかりで、教授自身が期末試験で生徒にどのような分析の仕方を望んでいるのかが明確ではなかった」と言って、期末試験の評価が下がった責任の一端は教授の側にあると主張している。出席が少し足りないと判断されたことはクラスメイト自身に非があるにせよ(ただし彼によれば、教授が授業中リーディングに沿って議論を進めようとせず、自分がリーディングに関する質問をしてもあまり深入りせずにすぐに次のテーマに移ろうとするので、学期末の頃には授業から得られるものに対して疑問を持つようになり、また就職活動や修士論文の執筆という事情も重なって、授業に欠席しがちになったと述べている)、授業の進め方について教授の拙劣さがあったことは確かであった。確かに彼が生徒たちに何を要求しているのかがいまいち不明確だったのである。

 教授の言い分によれば、彼はAをどんどん出すことには強く反対の姿勢を持っており(自分へのメールで彼は自分自身を「I am a staunch foe of U.S. grade inflation.」と表現している)、AおよびA−はよほど優秀な結果を残した生徒にしか与えないと書いている。実際に今回のこの授業でAをもらったのはクラスの25人中2人、A−が3人、B+が11人、Bが2人。そしてまだ課題を全て出し終わっていない生徒には、落第(F)ではなく、Incompleteという評価がつくのだが、この評価が7人だったそうである。(ちなみにこのIncompleteという評価がいまいち自分にはよくわからない。常識的に考えれば、最初から決まっていた期限までに課題を出さなかった時点で落第になってもおかしくはないと思うのだが、どうもそうではないようだ。コースの途中で留学することになったなどの場合は仕方ないと思うが。)

 AおよびA−をそう簡単には出さないという教授の姿勢はよく理解できるし、日本の大学のように誰でも簡単にAを取れるシステムよりはよほど公平的だと自分は思う。ただ、期末試験に対する教授の不手際についてはクラスメイトの言い分にも一理あり、そのことが生徒の試験準備や受験の際に混乱を招いたことも事実である。

 アメリカには学期の最後の授業で、生徒の側が教授を評価する制度がある。いろんな評価項目を5段階くらいの評価でマークシートに記入するものである。生徒がその評価をしているあいだは、教授は教室の外に退席していなくてはならない。この生徒の側からの評価が学事部でまとめられ、ウェブ上で公開される。それが教授自身の雇用や給与にどう反映しているのか、そもそも反映しているのかどうかはよくわからないが、それでも生徒がその教授をどう評価しているのかが一目瞭然になるようなシステムになっている。

 おそらくこのクラスの教授も、今学期に関してはここで手厳しい評価を受けているはずである。いくら同情すべき個人的な理由(健康上の理由、身内に起こった不測の事態など)があったにせよ、生徒の側には高い授業料を払ってこのクラスを取っているという意識が強い。そもそも大学教授に限らず、世にプロフェッショナルと呼ばれている人たちは、こういう個人的な理由をあまり公表しないものではないのだろうか。生徒の側には「費用に見合った知識や洞察が授業で得られなかった」という不満が残る。教授も、個人的な事情を言い訳として羅列するのではなく、そういう生徒側の不満にも真摯に対応すべきだと思う。もちろんこの教授は、まだ不満があればいつでも私に直接電話かメールで伝えてくれと言っているので、きちんと対応する気はあるようだ。

 自分などはいつももらった成績をなんの疑問も持たずに受け取ってきたので(いつも成績がいいという意味ではない。悪い成績の時でも自分で納得して、先生に文句を言ったことはなかった)、クラスメイトが自分とは違う意識をもって先生や専攻長に抗議をしているのを知って、少し自分の意識を改めさせられた。