中島孝志『なぜか相手が説得されてしまう対話術』書評

 人との対話で最も重要な能力は、「聞く」能力でも「話す」能力でもなく、相手に「話させる」能力であると主張する本。人間の「話す」ことに対する欲求は非常に強く、もはや本能といっていいと著者は言う。だから、「聞き上手」であることも大切だが、相手に気持ちよく「話させる」能力はもっと重要だという。そしてそのような資質を備えた司会者を3人挙げて、それぞれのタイプの特徴を説明している。それは①タモリ型、②黒柳徹子型、③明石家さんま型の3つである。

 ①は、彼の口癖の「最近何やってるの?」という言葉に明らかなように、気軽さが売りのタイプ。司会のタモリが気軽だから、ゲストも気軽に答える。(111頁)二つ目の特徴は、あれこれ話題を変えずに、「最初の話題に突っ込んでどんどん聞いていくというスタイル」(112頁)。

 ②は、「オーソドックスなNHK的聞き方」(113頁)。意外性はないけど、初対面の相手と話す場合や正式なパーティなどに適した話し方だと著者は言う。

 ③のさんま型は「楽屋話を広げて笑いを取るスタイルだが、だれとだれをぶつければ、どんな化学変化が起こるかということを熟知している。」(115頁)よって一人では全く面白くない。相手がいて初めて面白い。また、「まずは自分がバカになってみせる」点と「相手をハイにさせる」点が特徴。

まず見本(お手本かもしれない)として自分からさっさとバカになりきってしまう。その姿を見せて、「みなさん、安心して失敗談やバカ話をしてください。フォローはこちらでしますから」という優しさが根底にある。(116頁)

もう一点、さんま型の特長は高いテンションに相手を巻き込んでハイにさせて、どんどん話をさせることだ。たとえば、おもしろくなくても、「それはおもしろい」「なるほど、ものすごく勉強になります」とニコニコ笑って愛想を振りまく。これを繰り返していると、「そんなに受けるのか」と相手も感じて、今度はホントにリラックスして話しはじめるのだ。こういうときに、ポンとおもしろい話題が聞けるのである。(116頁)

 本書内で出てくるダイアローグの例はあまりに単純すぎて、絶対現実にこんな場面はないと確信できるが、まあそれでも対話の際に気をつけるべき点としては多少参考になった。この本を読まなくてもつくづく思うことだが、他者に対する好きとか嫌いとかいう感情がいかに相手の対話形式やテキストに拘束されたものであるかを考えてしまう。愉快な対話(または不愉快な対話の回避)は、場数を踏むことよりもむしろ、その点をどれだけ強く意識できるかにかかっているような気もする。