David Campbell, Writing Security書評②

sunchan20042005-08-22

【Chapter 1. Provocations of Our Time】

「主体概念の不確実性」を認める立場から、対外政策の作成過程における脅威認識の生み出され方が恣意的であることを、この章では冷戦を引き合いに出して説明する。著者の主張に従うならば、冷戦についての従来から主流と見なされてきた言説は全て問い直されねばならなくなる。例えば、「自由主義陣営対共産主義陣営」という、二つの確固たるアイデンティティを有した国家群がのっぴきならない対立関係に置かれていたと見る構図がまずは疑われるだろう(16頁)。言語から独立して認識というものがあり得ないとするなら(6頁)、冷戦における双方の脅威認識は、各々の言説から自由ではあり得ない(22頁)。

米国側におけるそうした言説が公の形になっているものとして、著者は「NSC-68」を挙げる。これは今年他界してテレビでも大々的に取り上げられていたポール・ニッツ国務省政策企画局長(1950年当時)が起草者となって作成した、国家安全保障会議文書第68号のことである。ソ連との対決姿勢を明確にし、2ヵ月後に起こった朝鮮戦争を契機として具体的な対ソ軍事封じ込め政策へとつながった、冷戦期における最も重要な機密文書の一つである。

Campbellによれば、この文書の中では、ソ連が軍事のみならず文化や思想においても深刻な脅威として描かれており、脅威の源泉の曖昧さが華々しい比喩や修飾の文言によってごまかされているという(23頁)。そしてそれらの文言の中に、米国とはいかなる国であるのか、いかなる価値を重視し、いかなる存在意義を持った国であるのかが明確に示されているという。NSC-68に限らず、米国の外交文書にはアイデンティティを示す文言があふれていると著者は述べる。

外交文書は、共和政の実現、国家の根本的目標、神より賜った権利、倫理規定、ヨーロッパ文明の原則、文化的・精神的喪失に対する恐れ、輝かしい米国に課された責任と義務などについての記述であふれている。(31頁)

本章では、冷戦期における米国の対ソ政策の立案が、脅威としてのソ連の「構成」と米国自身のアイデンティティの「(再)創出」との間の相互作用によって生み出されたものであることがわかった。次章ではより一般的に、外交政策とはいかなるものであるかについて再検証される。