外岡秀俊『国連新時代―オリーブと牙』書評


国連の機構についての解説と、PKOそして国連そのものについての成り立ち、そして戦後史における日本と国連の関係についての解説から本書はほぼ成り立っており、典型的な一般向けの本。その意味で、巻末で著者が、本書は「一般読者にはややわかりにくく」と記しているのは当たらないと思う。国連について何を読んでいいかわからない初学者がまずは手にとって差し支えない本だと思う。また同時にその意味では、著者が本書を「試論」と呼ぶほど目新しい視点や意見が開陳されているわけでもない。本書が出版された94年の時点では、国連憲章日本国憲法の一体性の議論や日本の国連に対する貢献のあり方についての議論などは、幾分新味があったのかも知れないが、現時点から見ればどれも一般常識に属する議論である。


しかし本書にはいくつか優れた点がある。日本では理想主義的な見地から見られがちな国連を、国際政治の激動の中で右往左往する脆い存在として正確に描いている点がまずは挙げられる。

湾岸危機をめぐる安保理の対応から汲み取るべきものは、国連がいかに政治状況に左右され、試行錯誤の上に成り立っているかという事実であり、今後も、情勢次第で移ろう可能性が強い、という基本認識なのである。(49頁)

そして、その脆い国連を「過大視している」(189頁)という点では、冷戦後に国連が担う新しい役割に警戒感を抱く議論と積極的な国際貢献を説く議論は共通していることを指摘しているのも本書の優れた点である。その新しい国連の役割が憲法にもたらす緊張についても、対立する議論を公平に紹介している。


また、日本国憲法が法的・歴史的に見て「押し付け憲法」などではないと明言している点も評価できる(160〜161頁)。近年、低俗な保守派が改憲論と併せて「押し付け憲法」論を展開しているのを時々目にするので、それは事実として間違っているということは確認しておく価値があるだろう。


淡々と解説に徹しているという意味で、本書は公平で読むに値する本であり、国連についての入門書として使えることは確かだと思う。しかしそれは裏返せば、創造力を刺激するような新たな提言や、読者も含めた一般国民に対する的確で鋭い批判などがないという意味で、あまり読んでいて面白くないということでもある。


新書が持つべき教養書としての役割は十分果たしている本だと思う。