上杉勇司「地方復興支援チーム(PRT)の実像」

杉勇司「地方復興支援チーム(PRT)の実像―アフガニスタンで登場した平和構築の新しい試みの検証―」『国際安全保障』第34巻第1号(2006年6月)

本稿は2006年6月時点での内容であるため現在ではすでに新たな展開を見せているであろうが、アフガニスタンイラクにおける地方復興支援チーム(PRT)の成り立ちや機能・任務について非常に簡潔に整理されており、日本の関与が検討される場合にも議論の有効なたたき台になる。

このPRTは「当初はアフガニスタンに固有の治安状況に応じた特殊な一過性の試みであろうとの理解がなされていた」(35頁)が、現在では他の国・地域でも活動を行っており、今後も可能性と限界を探る分析が必要となる。

タリバンや反政府勢力の掃討作戦が行われた地域において、「治安維持、復興支援、中央政府の地方への影響力の拡大の3つ」(39頁)を実現することで、現地住民が「平和の配当」を実感できるようにすることがPRTの目的であると活動要領で定められている。そのためには反政府勢力の鎮圧を担う軍事部門と、治安部門改革(SSR)など政府の統治能力の強化を担う政務部門、さらに復興支援を担う開発部門の統合が必要となる。軍隊との間に距離を置こうとする人道援助団体からはこのような統合の試みに対して当初は懸念や批判が発せられたことも本稿では記されている。

すなわち、PRTとは「統治(governance)、治安(security)、開発(development)という平和構築の三局面に総合的に対応する仕組み」(41頁)として生み出されたものであり、その3つのどれが欠けても紛争状態に後戻りしてしまうとの認識に基づいている。3つを同時に実現することを意図して生まれた組織がPRTであり、とりわけ軍閥が各地に蟠踞するアフガニスタンでは、中央政府の権威を高めるために必要な手法であると考えられた。

また、PRTの機能と任務については、著者の主要業績である『変わりゆく国連PKOと紛争解決』(明石書店)の中で行われた国連PKOの機能別分類をPRTにも適用して、その特徴の可視化が試みられている。(44〜45頁の表1・2)その結果、国連PKOの分類で使われた三つの機能分類(介在機能・移行支援機能・人道支援機能)のうち、PRTは移行支援機能を担うことを期待されて設立されたものであることがわかった。

いまだ治安が安定せず、有意義な復興支援活動が行い得ない状況下で、「混沌から安定への過渡期の移行支援の一つのあり方」(51頁)として、PRTは一定の有効性を持ってきたといえる(とりわけアフガニスタンにおけるDDRにおいてPRTが果たした役割は大きかったと著者は述べている。55〜56頁)。アフガニスタン全土に十分な兵員を展開できない中で、限られた資源の有効活用を可能にし、また治安が不安定な地域でも一定の活動を行えるという「比較優位」(55頁)を持ち、人道援助団体への補完的役割を担うという意味で、PRTは多くの利点を持っているといえる。

他方で、掃討作戦が長引き、戦闘行為に付随して現地住民の被害が増加していくにつれ、PRTの存在意義である「人心の安定と掌握」(winning the hearts and minds、38頁)という目標はますます遠ざかっていくことになる。PRTの有効性は場と時間の制約を大きく受けており、「PRTという形を採らずとも、援助関係者が自らの活動を展開できるような治安環境を形成すること」(51頁)をいかに早く実現できるかに個々のPRTの評価はかかっていると言えよう。

PRTについての事例研究は少しずつ蓄積してきていると思うが、日本において一般の関心が高いとは言えない。現場に即した新しい平和構築活動がますます統合・連携を必要とする中で、具体的にそれを実践する際の有効な組織形態がどのようなものであるべきなのか。その答えを探る上でPRTは格好の事例であり、依然として事例研究の蓄積と研究間の相互作用を必要としている。