James Jay Carafano, Private Sector, Public Wars 書評

Private Sector, Public Wars: Contractors in Combat - Afghanistan, Iraq, and Future Conflicts (Changing Face of War)

Private Sector, Public Wars: Contractors in Combat - Afghanistan, Iraq, and Future Conflicts (Changing Face of War)

 本書は、戦争において民間部門と公的部門が果たす役割の比重が大きく変化している(前者の比重が高まっている)ことを示すものとして、民間軍事企業(private contractors)に焦点を当てている。本書では、一般に耳に入りやすい通説に逐一反論が加えられている。この分野の研究や報道においてはこうした企業に対して批判的な立場をとるものが多いが、著者は明確に肯定的な立場を取っている。とりわけ本書における最大の焦点は、民間軍事企業の研究において第一人者と見られているPeter W. Singerについて、少なくともイラクアフガニスタンにおける民間軍事企業に関しては、事実に基づいた正確な分析や発言をできる立場にないと批判的に述べていることである。その理由として、Singerが主著Corporate Warriorsで取り上げた企業はいわば特殊な存在であり、民間軍事企業の大部分を代表する企業とは言えないこと(p.140)、民間軍事企業について信頼できる情報を提供できる組織(Inspector GeneralやGAOなど)はSingerが本を書いた時にはまだ活動を始めてさえいなかったこと(p.141)、彼が本を出版して以降の民間軍事企業の活動、とりわけイラクアフガニスタンにおける活動についてほとんどフォローしていないこと(p.140)などを挙げている。

 その他にも本書の注目すべき点として、民間軍事企業にかかる費用が上がっているのは、企業が暴利をむさぼっているからではなく治安の急激な悪化のせいで契約を履行するコストが高くなっていること(正規軍が担っても同様にコストが高くなることは避けられないこと)(p.81)、イラクで正規の地上軍が絶対的に不足している(=民間企業の要員が多すぎる)という批判は根拠が疑わしいこと(p.97)、民間軍事企業の要員の給与額はかなり誇張されていること(p.99)、そうした要員には法律が適用されないという批判は事実と異なること(p.104)、マスコミやウェブ上の民間軍事企業についての議論は政治的に偏っていて信用できないこと(pp.154-155)、水増し請求などの不正行為を働く一部の企業の存在にも関わらず、これだけのメディア・公的機関・世論の監視の中では企業の不正行為は遅かれ早かれ見つかること(p.167)、同様の理由で政府が責任回避のために民間軍事企業を都合良く利用することはほとんど不可能であること(p.162)、などが挙げられるだろう。

 また、民間軍事企業に対する有力な批判の一つとして、「国家による暴力装置の独占」を脅かすという議論があるが、著者によればそのような議論は歴史的事実に基づいておらず、中世から現在に至るまで西欧政府が暴力装置を排他的に独占したことなど一度もないと述べている。(p.169)すなわち、戦争においては民間部門の存在が常に重要なものであり続けてきたと主張している。

 世間の耳目をひく通説に反論を加えながら、戦争における民間部門の役割(Private Sector in Public Wars)の質・量両面における増加は止めようのない流れであり(p.37)、今後も依存の度合いは高まっていくだろうと述べる。そして民間軍事企業は国家の戦争において良きパートナーになれるとその存在を肯定的に評価している。(p.118)

 しかしながら、全体の中での少数の企業であるとはいえ、ブラックウォーターやカスター・バトルズなど事件や不正行為を起こした一部の企業が紛争後社会における平和構築の進展を阻害している事実は、厳然として残る。著者はより重要なのは監視制度についての正当性と効力についての議論であると述べている。(p.39)そしてイラクアフガニスタンにおける民間軍事企業への米政府による業務委託において最大の欠点は、ワシントンが自身が委託した膨大な契約を監視する能力を欠いていることだとも述べている。(p.201)

 しかしながら他方で、そのような監視機構を設立することの難しさに言及しており(p.87)、さらに公平性、透明性、コストなどすべてを監視しようとすれば、契約を複雑なものにして戦闘にふさわしくないものにしてしまうとも述べている。(p.95)「ではどうすれば正当性があって効果的な監視機構をつくることができるのか」という議論については、著者はそれ以上の議論を本書ではしていない。また、第5章で筆者が展開している、自由貿易に対するほぼ無条件の賛同は、おそらく批判的に読まれなくてはならないだろう。これらの点は本書の限界であると思われる。

 にもかかわらず、本書は民間軍事企業にまつわるセンセーショナルな事件だけを取り上げてその存在意義に疑問を投げかける通説に対しては説得力のある反論を展開しており、最新の情報に基づいて特に平和構築における民間軍事企業の役割を学術的に分析することの必要性を認識させる点で、非常に重要な文献であると思われる。