ポスト構造主義と国際関係論

Theories of International Relations

Theories of International Relations

  • 作者: Scott Burchill,Andrew Linklater,Richard Devetak,Jack Donnelly,Terry Nardin
  • 出版社/メーカー: Palgrave Macmillan
  • 発売日: 2009/03/15
  • メディア: ハードカバー
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Richard Devetak, “Post-structuralism” in Scott Burchill, et.al., Theories of International Relations, 4th edition, Palgrave Macmillan, 2009.


1.「ポスト構造主義」とは?
ポストモダニズム脱構築(deconstruction)、系譜学(genealogy)などの概念を用いて、従来の諸前提を問題化する思想


2.知と権力
・「客観的知識は価値・利害・権力関係から自由でなくてはならない」という考えに挑戦
・国際関係に適用して、主権という認識枠組がどのように特定の認識論的立場と政治的生活の説明を生み出しているかを分析
・国際関係論は理論も実践もともに主権という構成原理で条件付けられている。


3.系譜学(genealogy)
・知と権力の関係の重要性に着目する歴史的視点の一種
・過去の出来事についての特定の表現方法が、どのような過程や経緯を経て「正常な(normal)」「自然な(natural)」と見なされるに至ったのかに注目
 →この表現方法が政治的・社会的選択肢を制約する
・歴史を書くにあたって排除され隠蔽されたものを顕在化させ、主流の歴史記述への対抗的な歴史記述を生み出す営為
 →主体・客体・行動領域・知識領域を構築するにあたって生み出されたり排除されたりした多様な過程の可能性を明らかにする(「単一の客観的で主要な歴史記述」の否定)
・あらゆる知識は特定の時間と空間の下に置かれ、特定の視点から生まれる(知の普遍性の否定)
・客観的な「現実世界(real world)」の否定 →あるのはperspectivesとinterpretationsのみ
・9/11事件も話法(narrative)によって多様に構築される
・歴史とは多様な政治的意志の絶えざる権力闘争の産物である
・identityもagency(行為主体)も前提すべきものではなく説明すべきもの
 →constructivismと共通
 →現在のidentityを維持するために歴史を利用することの否定


4.ポスト構造主義の二つの分析概念:脱構築とダブル・リーディング
(1)ポスト構造主義の考え方
・「テクスト(text)」としての現実世界:構築する際に必ず解釈が伴う
・「美学(aesthetics)」としての国際関係論
 →表現形式と表現されるものの関係が重要(個々の研究者によって全く異なる)
・カントの経験主義批判に連なるポスト実証主義(post-positivism)の認識論
 →「純粋理性」「現実の自然で中立的な反映」に対する懐疑

(2)脱構築(deconstruction)=全体性(totality)の解体
・二つの対立概念(主権vs無政府など)が実は相互に寄生関係にあることを明らかにする
・各々の概念の内部にも統一性はなく、違いが覆い隠されていることを示す

(3)ダブル・リーディング(double reading)=脱構築の一形式
・first reading
→主要な解釈が持つ前提に従って読む
→それぞれのテクスト・言説・制度がどのようにして一貫性があるように見えているのかを示すのが目的
・second reading
 →確立されたと見なされている解釈や概念を不安定化させる
 →隠蔽されている概念内部の緊張関係を暴く
 →あらゆる物語がいかに内部対立の抑圧に依存して成り立っているかを示すのが目的

(4)国家主権についてのAshleyのダブル・リーディング実践
・主権(sovereignty)と無政府(anarchy)の対立は、主権国家「内部」の対立を主権国家「間」の対立にすり替えることで成り立っている
・「主権国家内部の異質性の排除」と「主権国家の外部の排除」というdouble exclusionによって国家主権概念は保たれている
・「無政府」という概念があって初めて「国家主権」という概念が成立する(相互寄生関係)


5.主権国家の問題化
主権国家がどのような歴史的経緯を経て「本来的(essential)」なものと見なされるに至ったのかを問題化
主権国家がまずあったのではなく、暴力行使の中で徐々に形作られてきた
 →従来のIRでは「国家間の戦争状態」が前提だったため、暴力行使よりもまず国家があった
・援助団体も「助ける対象の選択」をする際に主権国家の論理に従っている
ポスト構造主義者が関心があるのは「主権とは何か」ではなく、「主権は時間的・空間的にどのように生み出され流通するのか」である
・内vs外、我々vs彼ら、主権vs無政府などの間に境界線を引く行為が政治的空間を決める
・自己vs他者の区別が他者に対する脅威認識を生み、政治的アイデンティティを生み出す
主権国家は「所与の主体(pre-given subjects)」ではなく、「変化の過程にある主体(subjects in process)」である


6.「政治的なるもの(the political)」の再考
・主権概念は我々の政治的想像力を貧困にし、世界政治のダイナミクスに対する理解を制約している
 →例えば難民(refugees)は、主権の枠組みから外れているが故に「助けを必要としているもの」「劣った存在のもの」として位置づけられ、それが持つ影響力に対する理解を制約してしまう
ポスト構造主義は、倫理についての理解を領土概念の制約から解放する(脱領域化)


【コメント】
・人間は「構築」し「想像」する存在。「構築されたものにすぎない」「想像されたものにすぎない」というのはポスト構造主義の誤読だろう。
・どう「再構築」「再想像」するのかが問題と批判者や現場の人たちは言うだろう。でもポスト構造主義者はそれは我々の仕事ではないと答えるだろう。結局平行線のままだと思う。