States, Citizens and the Privatization of Security書評

States, Citizens and the Privatisation of Security

States, Citizens and the Privatisation of Security

本書の筆者の仮説は、「80年代から冷戦後にかけて、アメリカ・イギリス・ドイツの西側主要民主主義国が置かれた安全保障環境は同じであるにも関わらず、それぞれの国が軍事の民営化(privatization of security)に対してとった政策が異なったのは、イデオロギーの違い(Republicanism vs Liberalism)が原因である」とするものである。安全保障環境、予算の制約、市場の需給などの「機能的(functional)要因」だけでは説明できず、各国が基盤にするイデオロギーをも独立変数に組み込む必要があると主張するものである。それを示す別の例として、ジョージ・W・ブッシュ政権が、軍の支援活動の民間委託がコストの削減につながっていないことを示す証拠が出ているにも関わらず、軍事の民営化という流れを変えることがなかったことを挙げている。それは、ブッシュ政権ネオリベラリズムイデオロギー固執していたためで、民間軍事企業(PMC)をめぐる政策を機能的要因だけでは説明できないことを示していると述べている。(125頁)

イデオロギー要因については、80年代以降の歴史をふりかえりながら、PMCの利用に積極的な立場をとってきた米・英はリベラリズムを政策の基盤としたのに対し、政府の役割を重視しPMCの利用にも慎重に対応してきた独はリパブリカニズムに依拠してきた、という区分を採用している。軍事介入で支援業務を民間企業に委託するか否かの議論でも、こうしたイデオロギー的要因が三国の政策決定に大きな役割を果たしたと述べている。(194頁)

問題意識と論理展開は明快であるが、驚きや意外性は少なかったように思われる。確かにイデオロギー要因を説明変数に加えることの重要性は理解できるが、機能的要因がイデオロギーに及ぼす影響も同様に大きいことを考えると、二つの要因の相互作用という形で考えるしかないのではないかという気がする。また、軍事の民営化に影響を与えるイデオロギーを中心に論じているため、軍事の民営化の中身についての具体的な議論はあまりなされておらず、軍事の民営化またはPMCについての政策的な議論(治安部門改革(SSR)の中でどのような役割を果たし得るか、など)にはあまり寄与しない文献であると思われる。(PMCがSSRや安定化作戦に関与していることについてのごく簡単な言及は201頁と207頁でなされている。)