日本人の事なかれ主義は女のせい?

American Pie Slice of Life Essays on America and Japan

American Pie Slice of Life Essays on America and Japan

日米文化比較のエッセイ集、

Kay Hetherly, American Pie: Slice of Life Essays on America and Japan

が面白い。電車の中で読むにはうってつけです。

おすすめはたくさんありますが、中でも「Everyday Heroes」と題するエッセイがいい。筆者が映画やドラマで目にしたアメリカと日本の考え方の違いが面白かったです。

日本のドラマで、例えば女性とデートしている若いサラリーマンが出てきたとします。夜に二人が歩いていると、偶然暗い路地裏でホームレスが若い男集団にリンチされているところに遭遇しました。サラリーマンの男性は立ち止まってそれをじっと見ています。女性は、「早く行こうよ」と男性にその場を早く離れるように促します。ところが若者たちが二人の存在に気づき、サラリーマンの男性に近づいてきて「何見てんだよ!」と殴りかかってきました。結局そのサラリーマンの男性は巻き込まれて殴られてしまいました。こんなことが起こったあと、この男性と女性の関係は確実に終了します。もう二度とこの二人がデートに行くことはないでしょう。

これを見たアメリカ人の筆者はとてもショックを受けたそうです。アメリカであれば、同じ状況にデート中の二人が遭遇した時、女性が男性に対して言う言葉は、

「早く何とかしてあげて!」

だそうです。たとえ何とかしてみてその結果その男性が殴り倒されてしまったとしても、二人の関係が終わることはない。逆にその男性が傍観して何もせずにその場を立ち去ったとしたら、女性は男性に失望し、二度とその相手とデートに行くことはないだろうと述べています。

もちろん軽々しく一般化などできませんが、わかりやすく言えば日本の女性は

「ぼーっとしてるうちにゴタゴタに巻き込まれるような男はトンマ」

と考えるのに対し、アメリカの女性は

「弱い者がやられているのを目の前にして何もできない男はカス」

と考えるのだということでしょう。

女性が男性に求める資質が男性の価値観に及ぼす影響が大きいのは当然のことで、男は基本的に単純なので女に気に入られるような価値観を自然に身につけていきます。それが社会的にある程度共通するようになると、国の間の価値観の違いにまで発展するのだろうと思います。

確かに日本の女性の考え方は合理的かも知れません。救おうとしたって救えるかわからないし、むしろ事態をかえって悪化させるかも知れない。隣人が誰かわからないような大都市に住んでいると、事情もわからないのに見知らぬ人たちのゴタゴタに首を突っ込むようなことは損だと考えるようになっても無理はないのかも知れない。筆者はそう書いています。

それでも人はやはり「ヒーロー」を求めずにはいられないのだと筆者は最後で言っています。次の英文は筆者のエッセイの締めの言葉ですが、ここを読んだ瞬間、言葉のリズムのかっこよさにしびれました。

But the fact is the victim could very easily be your neighbor. Or you. Or someone you love. And that's when you may really hope that somebody in the crowd will at least try to be a hero.

(しかし現実には、その被害者は容易にあなたの隣人になりうるのです。あるいはその被害者はあなた自身になるかも知れません。あるいはあなたの愛する人かも。そんな時、人は群衆の中の誰かがヒーローになってくれればと心から願うものでしょう。)