「分かりやすく稼いで安心させなきゃって焦った」


朝日新聞2013年7月25日朝刊
「おやじのせなか とらわれない無欲の人 マツコ・デラックスさん」より抜粋。

15年ほど前、雑誌の編集者を辞めて実家に戻ったころ、「働かないやつは、水、飲むな!」って怒られた。「出版関係の仕事」とは言ってあったけど、作っているのがゲイ雑誌だから、何一つ説明ができなかった。父の「おまえはどうやってメシを食っていくんだ」っていう不安が一気に出た言葉だった。「分かりやすくお金を稼いで、ちゃんと生きていけるって安心させなきゃ」と焦ったのを覚えてる。


今では仕送りもしているけれど、「ちゃんと稼いでるから安心して」って父にアピールするために送ってるようなものね。たぶん仕送りは使わず、必要最低限のもので粛々と生きてる。


何が楽しくて生きてるのかなって最近思う。だけど、本当に戦争を経験した人たちに話を聞くと、親ってものがだんだん理解できてくるわね。隣で人が火だるまになって死んでるような時代を生きた人なら、子どもが女装してメディアに出たって、「まあ、とりあえず生きてるし」って動じないよなって。


この親に育てられたから、自分がゲイだと気づいたときも「別に死ぬわけじゃないし」と困らなかった。生きていられるんだから、セクシュアリティーなんて何でもいいって気持ちが自分にあった。それにはすごく感謝してるわね。あの親じゃなかったら、今の私はなかったから。

http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201307240730.html