家族で唯一生き残った50代の女性

 

紛争地の看護師

紛争地の看護師

 

 白川優子『紛争地の看護師』小学館、2018年より。

 

 7月14日。奪還宣言から5日が経過した。空爆の音がまだ続いている。

 日本ではモスルに平穏が訪れたと思われているのだろう。奪還宣言を境にして、モスル関連のニュースは消えていた。

 この日運ばれてきたのは50代の女性だった。貧血と栄養失調は顔色から察知できた。彼女は空爆で片足を失った。

 手術を終え、まだ麻酔の眠りについている彼女を見つめる。鼻筋が通り上品な顔立ちだ。とても痩せてしまっている。

 彼女が目を覚まし、さめざめと泣き始めた。しばらく泣いた後、私の顔を見て言った。

「死なせて」

 夫と4人の子供を失い、彼女だけが生き残ったことに絶望していた。もちろん、彼女には何の罪もない。

 仕事中は泣かないようにしているが、その日は彼女の手を握りながら泣いた。(p.31)