基礎学力の客観的自己評価

読書の技法

読書の技法

佐藤優『読書の技法』より引用。

筆者は、神学を専攻していた関係で、哲学やキリスト教を専攻する大学院生から相談を受けることもあるが、まともな相談はほとんどない。こういう相談をしてくる学生の9割は、哲学・神学研究の基礎となる学力がついていない。しかも、基礎学力の欠如を自覚するプログラムが頭の中に組み込まれていない。古典ギリシア語を6カ月でマスターしたとか、1カ月でカール・バルトの主著『教会教義学』(全36冊、新教出版社)を読破したというような、あり得ないことを平気で言う。

基礎学力をつける段階で客観的な自己評価ができないと、間違った読書法をしてしまう。大切なのは、自分の知識の欠損部分を知り、それを補うことだ。(56〜57頁)

最新学説を追う必要もない。最新学説が学界で市民権を得るのに10年くらいかかり、それが入門書に反映されるのにさらに10年くらいかかる。したがって、入門書で得られる知識は20年くらい前のものであるが、それはそれでいいと腹をくくることだ。

ちなみに哲学や神学のような学問は、10〜20年ではまったく廃れない。筆者が同志社大学神学部で神学の基礎を学んだのは1810年代にドイツで発行された教科書だった。文科系の知識ならば20〜50年程度の時差は、現状を分析する場合、実はそれほど支障をもたらさない。(57頁)