フォーリン・アフェアーズ『ネオコンとアメリカ帝国の幻想』書評

標題に「ネオコン」という言葉が含まれているが、実際にネオコンそのものを分析している箇所はほとんどない。むしろより広範に、イラク戦争をめぐるアメリ外交政策の分析、またこの戦争をめぐって起こった米欧対立および安保理の崩壊が本書のメインテーマとされている。標題に関わることでもう一つ言い得ることは、本書の編者の意図が、イラク戦争をめぐるアメリカの「新帝国主義大戦略」(アイケンベリー)が「幻想」にすぎないことを明らかにする点にあるということである。本書を読み通せば、そうした編者の意図にすぐに気づくだろう。というのも、国際コミュニティの重要性に立脚して現在のアメリカの外交政策を批判的に論じる論文と、アメリカの覇権を必然的なものと見て、アメリカの自己本位な国益の再定義を好意的に論じる論文の間には、論理構成、視野の広さ、説得力といった点において、明らかに質の差が見受けられるからである。前者の方が、より緻密で秀逸な論文になっていることは言うまでもない。

個別に論文を評価すると、まずハンチントンと前副大統領のアル・ゴアの論文はあまり読む価値がない。ブルックスとウォールフォースの「アメリカの覇権という現実を直視せよ」は、アメリカ人の自慰的な発想の例として、また反面教師として参考になろう。また、現大統領補佐官コンドリーザ・ライスの論文は、恐ろしく視野が狭くて、うんざりするほど国益に執着する人間が、現在のアメリカ対外政策の構想・立案を担っているという事実を確認するために、目を通しておく価値があるだろう。

逆に、現アメリ外交政策の明晰な分析として、ハーシュとアイケンベリーの論文は読み応えがある。前者はジャーナリストによる時事的な分析であり、後者は極めて優れた歴史的・理論的分析になっている。また、いくつか極論と思われるような箇所があるにも関わらず、現実的で説得力のある「安保理崩壊」論を展開するのが、フィリップ・ゴードンの論稿である。本書一冊を読むだけで、イラク戦争をめぐるアメリ外交政策において何が問題なのか、他の諸国はそれにどう向き合えばいいのか、について多くの示唆が得られるという意味で、本書は大変貴重な一冊である。