イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策

イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1

イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策 1

2分冊になっているこの大著の結論は、以下の部分に集約される。

エネルギー業界が環境規制に加える力と同程度に、あるいは製薬会社が処方薬についての政策決定に果たす役割と同程度に、<イスラエル・ロビー>が米国外交に与える影響力にも厳しい目を向ける必要がある。私たちは「米国が戦略上あるいは人道上の観点からはほとんど意味がない中東政策を続けている主な理由は、<イスラエル・ロビー>を構成する集団と個人の活動にある」と考えている。このロビーの努力がなければ、米国の無条件の援助を正当化するためにしばしば持ち出される”戦略的あるいは人道的説明”について、もっと頻繁に疑問が出されてきたはずだ。親イスラエル勢力は、米国の国益にもイスラエル国益にも適う政策を自分たちが推し進めている、と考えていることは確かだ。だが、私たちはこれに同意しない。彼らが提唱している政策のほとんどは、米国の利益にもイスラエルの利益にもなっていない。それどころか、もし米国が別の取り組みをするなら、両国はよりましな状態になるはずだ。(202頁)

よその国から見れば至極まっとうに聞こえるこの主張を、アメリカで行うことがいかに勇気のいることかは、著者の一人でハーバード大学教授のスティーブン・ウォルトが「私は何度、『反ユダヤ主義者』と罵倒されたか分からないよ。なんとか生き延びてきたけれどね」(三井美奈『イスラエルユダヤパワーの源泉』新潮新書、89頁)と言っていることからもわかる。

ネオリアリスト(または攻撃的現実主義者)として世界で最も著名な国際政治学者であるミアシャイマーとウォルトがこの本を出したことによって、イスラエル支援のこととなると思考停止に陥っていたアメリカ国内の議論にも地殻変動が起きているという。

CIAの幹部たちやペンタゴンの将軍たちの多くからも「その通りだ。これ以上米国の国益外交政策を滅茶苦茶にされてはたまらない」と、二人の勇気ある学問的な突出に対して、深い尊敬の念が起こっている。(副島隆彦の「訳者あとがき」より。366頁)

本を出版した最大の成果は、イスラエル・ロビーについて話すことがタブーでなくなったことです。(ウォルトの発言。三井前掲書、90頁)

イスラエル・ロビーという「特殊利益団体」の影響力を緻密に分析した本書を通して、アメリカという国の様々な側面が見えてくる。読むのが少し遅かったかも知れないが、ここ数年で読んだ中で最も面白かった本。

http://www.truthdig.com/report/item/20071004_breaking_the_taboo_why_we_took_on_the_israel_lobby/