戦争の支配的優位を明け渡しつつある米軍

フォーリン・アフェアーズ・リポート 2019年6月号

クリスチャン・ブローズ「AIと未来の戦争――アメリカが軍事的に衰退する理由」『フォーリン・アフェアーズ・リポート』2019年6月号より。

 

「この20年にわたってアメリカが中東での紛争に気をとられている間に、中国とロシアなどのライバル国は戦略を細かに検証し、あらゆる領域でアメリカのシステムを探知する接近阻止・領域拒否(A2AD)能力を開発し、大規模な精密誘導兵器で米軍を圧倒する計画を進めた。要するに、ライバル国はアメリカの高額な軍事システムを破壊するために、同様に高額で大規模なシステムを配備した」(p.25)

 

「一方で中国は、「人工知能その他の先端テクノロジー部門で世界のリーダーになる」ためのメガプロジェクトにすでに着手している。このプロジェクトが軍事領域に特化しているわけではないが、そのすべては軍事的に応用できるし、「軍民の融合」ドクトリンを掲げる中国軍に恩恵をもたらせる」(p.25)

 

「米軍がそのデータを無意味な副産物として排ガスのように扱っているのに対して、中国はそれを大切な石油であるかのように上からの命令で備蓄させている。目的は将来の戦争における支配的優位を確保する上で不可欠と北京が考える自律的でインテリジェントな軍事システムを動かすためだ」(p.25)

 

「すでにひどい状態にあるアメリカの立場は、急速に悪化しつつある。2017年のランド研究所の報告は「妥当な推定を基にすれば、米軍は次に戦闘を求められる戦争で敗北する」と結論づけ、同年、ジョセフ・ダンフォード統合参謀本部議長も、はっきりとした表現で「われわれが現在の軌道を見直さなければ、量的・質的な競争優位を失うだろう」と警告している」(p.25)

 

アメリカにとって最大の危険は、通常戦力抑止が形骸化しつつあることだ。北京やモスクワの指導者たちがアメリカとの戦争に勝てるかもしれないと考えれば、大きなリスクを引き受け、攻勢にでるだろう。バルト諸国、フィリピン、台湾、日本、韓国を守るために「ワシントンは本当に米軍を派遣するだろうか」という疑問を煽り立てることで、中ロはアメリカの安全保障コミットメントを着実に損なうような行動をとるだろう。強制外交から、経済的脅し、他国の内政への干渉に至るまでのあらゆる方法を通じて、(米同盟諸国を揺るがそうと)思うままの行動をとるだろう。次第に勢力圏を広げ、新たに取り込んだ地域を権威主義イデオロギー、監視国家、縁故資本主義となじみのよい地域に作り替えようとする。要するに、孫子が言う「戦わずして勝つ」戦略をとるだろう」(p.25)

 

ペンタゴン、議会、民間部門には、アメリカの国防プログラムが変化を必要としていることを理解している、能力のある誠実な指導者が数多くいるのは事実だ。しかし、問題の本質をもっとも理解している指導者は、それに必要とされる大きな変化に対応していく権限を欠いている。一方、大きな権限をもつ指導者は問題を理解していないか、それにどう対処すべきか分かっていない」(p.29)