『蟹工船』を読む若い「左翼」たち
- 作者: 小林多喜二
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これと並んでマルクスの『資本論』を輪読する勉強会もいろんなところで行われているらしく、目の前に現れた信じられないような苦境と古典を結びつけ、「この本で書かれていることは、まさに今自分たちが経験していることそのものではないか」と、ある種の新鮮さをもって受け止められているようだ。
かく言う自分も、最近はそっち方面の本も少しずつ読んでみようと思っているのだが、今日の朝日新聞(日曜版)の特集「耕論」で佐藤俊樹・東大准教授が書いていることが非常に印象的だった。
かつての左翼とは違い、今の「左翼」はバーチャル(仮想的)な左翼、バーチャルな共同体主義だ。実際に国家や経済を運営しているわけではなく、人類史を唯物史観で説明できるという発想もない。本気で自由主義を覆すというより、現状の問題を切り出す便利な「言葉」として、もっぱら使われている。
バーチャルな左翼・共同体主義は、行き過ぎた市場原理への対抗や不平等の放置への異議として、大きな意義がある。ただ、理念である以上、リアルな面も取り戻そうとする。それが社会を実際に共同体主義で強く規制しようとすることには、私は否定的だ。
かつての社会主義国家のような抑圧や息苦しさを生み出すことになるし、バーチャルな分、「左」志向がそのまま「右」に転じる危険もある。特に「右」に振れた場合、日本の非「大国」化への恐怖と結びついて、暴走しやすい。
今の40代以上の人間は、連合赤軍時代、ソ連や中国の社会主義革命の破綻、さらには宗教的にもオウム真理教のテロなど、リアルな共同体主義がどれだけ多くの人を殺してきたかを同時代的に経験しており、警戒心が強い。ロスジェネ以降の世代はその経験を持たない。そこが彼らの「左翼」志向の新鮮さであり、可能性の源泉でもあるが、同時に危うさでもあると思う。
(2008年5月18日付・朝日新聞)
苦境に置かれた若者たちが、古典的左翼思想に現実理解のよすがを求めようとしている中で、佐藤教授のように「過去の経験を知っている身としては、そこには危うさもある」というバランス感覚のある論にもきちんと耳を傾けないといけないと思う。おそらくそのような形で世代間の対話も豊かなものになるのだろうと思う。