岡田斗司夫『いつまでもデブと思うなよ』書評

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)

いつまでもデブと思うなよ (新潮新書)


日頃から、「健康のためにはやせないといけない」と漠然とは思っていながら、「まあでも今のところどこも悪くないし、別に日常で困っていることもないのでいいか」と考えて、ダイエットに興味はあっても実践しないか、しても短期間でやめてしまうパターンがほとんどだろう。

それではいつまで経ってもやせない。そこで本書である。この本、いろんなうさんくさい広告に劣らず、

「ダイエットなんか全然つらくない。現に私は楽して50キロやせた」

と宣伝文句で言っている。でも岡田斗司夫のこと、なんの根拠もなくそんなことを書くわけがないと思って読んでみた。

要するに彼がやったことは

「口に入れたあらゆるもののカロリーを一つ残らずメモする」

これだけである。ほんとにこれだけである。運動もほとんどしてないし、好きな食べ物を我慢することもしていない。つまり、これが彼の言う「レコーディング・ダイエット」(記録ダイエット)。

まず、人間は全く動かなくても、生きているだけで1日に「1500キロカロリー」を消費する。これが「基礎代謝量」。
巷にはいろんなうさんくさいダイエット広告があふれているけれども、ダイエットの原則は

消費カロリー > 摂取カロリー

という当たり前の公式が成り立っているかどうか、だけである。これが成り立っていない(あるいは短期間しかこの公式がもたない)ダイエットはすべて無効である。

(余談だが、タレントが一時的にやせてダイエット本を出すことがあるが、中にはまたデブに戻る人もいる。それは詐欺だと思う。本買った人に金返すべきだと思う。)

で、岡田はとにかくあらゆるものをメモにしてみた。すると、「自分はなんて太るための努力を毎日欠かさずしていたのだろう」ということに気づいた。そう、ダイエットできない人は意志が弱いのではなく、

「これほどまでに毎日飽きもせず太るための努力を続けている人」

なのだった。発想の転換である。

カロリーをつけてみて気づいたのは、ほとんどの食べたいものは最初の数口だけ食べればそれで満足できるものであることに彼は気づいた。


つまり、太っている人のほとんどは、「自分が食べたい量」以上に食べていて、終わりのほうはほとんど惰性で食べているに過ぎないということである。

タバコを吸う人がよく

「最初の1口か2口吸えばもういい」

と言うが、食べるのもそれと同じで、おいしいものをちょっとずつ食べればそれでいいはずなのである。それを調子に乗ってドカドカ食うから太る。

カロリーを計算して、まるで家計簿をつけるかのように「今日は朝200カロリーしか使わなかったから、昼は奮発して600キロカロリーのものを食べよう」とか、「昨日の夜は1000キロカロリーも食べてしまったから、今日は200キロカロリーのものにしよう」とか、そういう感覚で彼はダイエットする。

最近では商品にカロリー表示がしてあるし、ファストフード系の店ではウェブサイトに表示してある。
それ以外は↓のようなサイトを使ったり、あるいは「食品名 カロリー」でググればあっさり出てくる。
http://muuum.com/calorie/index.html

するとどうだろう。週1キロのペースで減っていき、1年で50キロやせた。それもそのはず。太っていた頃の食べ方があまりにも異常で、それをちょっと改善しただけでやせる。彼は食べたいものを何一つ我慢してなんかいないし、つらいと思ったことも全くない。まさに理想のダイエット。(上の写真は「ビフォー&アフター」である。痩せているほうがはるかに知的に見える。)

原理は簡単で、食習慣を正常なものに直しただけ。食べたい物を我慢する必要はない。でもちょっと食べればいい。

彼がやったことの例をいくつか挙げると、岡田はメガマックが発売されたとき、どうしても食べたかった。でも彼は「レコーディング・ダイエット」継続中だった。どうしたか。

彼はメガマックを買ってきて、それを8つに切り分けた。そして一番ジューシーでおいしそうな部分を選んで、他はゴミ箱へ捨てた。そしてその8分の1を食べた。おいしい…。もっと食べたいか?イエス!じゃあもう1回買いにいくほど食べたいか?ノー…。(これを聞くと必ず「食べ物を粗末にするなんて」という人がいるが、これがなぜ食べ物を粗末にすることにならないかはこの本を読んで下さい。)

そういうわけで、実際には1口でいいのに、惰性で残りの8分の7を食うから太るのである。摂取カロリーを綿密にノートに取ることによって、そういう意識が高まる。やせないはずがない。

この本は新しいことなど何一つ言っていない。おそらく「消費カロリーの詳細なメモを取れ」というのは、これまでの多くのダイエット本に書かれていることだろう。ただ、彼ほどにセンセーショナルに自分で実践してみせた例はなかっただろうし、50キロ減という尋常ではないダイエットも一般の耳目を集めるのに貢献したのだろう。

この本に触発されて実際に自分もやってみたところ、本当に10キロ近くやせてしまった。というより、これを実践すればやせないはずがない。たいしてつらくもないし、単に自分が口に入れるものに対して、細かいところまで意識するようになっただけのことである。

驚きだったのは、1500キロカロリーでも結構食べられるもんだなあということ。あと、「1日1500以内」にこだわる必要がないというのも岡田の主張。今日オーバーしたら明日は少なめというふうに、1週間単位で計算すればそれでいいとのこと。それなら食べたいものを我慢する必要なんてないし、単に必要以上に食べなければいいだけのことである。(例えばラーメンが食べたくなって食べたら、その日の合計摂取カロリーはおそらく1500を超えてしまうだろう。それはそれでよくて、翌日以降の数日間で少しずつ摂取カロリーを減らせば、別にラーメンを我慢する必要はない。ただ、スープを惰性で最後まで飲み干してしまうのはやめたほうがいい。)

この本を読んで、「自分はほんとにそんなにこれを食べたいか?」とか、仮に食べたいとして「もっと食べたいか?」と自問する癖がついた。だいたいは「そこまで食べたいわけではない」というのが答えである。

デブはグルメなどではなく、後半は惰性で食べているのだから、本当に味わっているとは言えない。「デブ=いつもおいしいものを食べている人」じゃなくて、「デブ=理性を通り越して食い続けている、セルフ・コントロールのない人」である。

岡田が本書で書いているとおり、デブはどんなにいいこと言っても所詮はデブ。「デブが何かを言っている」というふうにしか見られない。売っている服も異常に種類が少ない。特注サイズだから割高なくせに、派手なデザインしかない。まさに「デブはカジュアルでも着てろ!」である。

よく「デブを差別するな」と言う人がいるけど、確かにひどい差別の例もあるのかも知れないけど、相手の評価を高めたかったら、多くの資格取ったり外国語の勉強するよりも、痩せることのほうがよっぽど簡単でコストもかからないというのが岡田の主張。残念ながら、「見た目主義社会」の現代ではそれも致し方なくなっている面はある。

【補遺】
ちなみに、本書でもウォーキングは無理のない軽めの運動としておすすめされている。
ウォーキングの消費カロリーの計算式は、だいたい

0.08 × 体重 × 歩いた時間(分)

だそうである。

体重70キロの人が1時間歩いたら、336キロカロリーの消費。ケーキ1個食べられるではないか!こう考えながらダイエットをすれば、全然つらくなくてむしろ楽しいということである。

ちなみに走った場合は0.08が0.1〜0.27(スピードを上げれば高くなる)まで上がるらしい。でも、あまりぜいぜいいうくらい速く走ってしまうと、脂肪の燃焼には効率が悪いとのこと。