米本昌平『地球環境問題とは何か』(岩波新書)

地球環境問題とは何か (岩波新書)

「この本の中で私は、地球温暖化論の科学的根拠が曖昧であることを指摘はするが、それは私が、それを理由に、世界が地球環境問題の対策に邁進することに反対であることを意味しない。それどころか、私の意図するところはその逆である。歴史のうねりは、その時代その時代の多くの人々が確信し共有する価値や世界観によって作り出されてゆく。そして長い時間をおいてみれば、どのような価値観や世界観が選びとられるのかについても根拠は、あいまいである場合が多い。それゆえ、地球環境問題の対策に没頭する社会に突入することに疑義をさしはさむような立場、たとえばコスト・ベネフィット論、つまり放置しておいた場合の害とこれへの対策のための投資コストを比較考量するような立場に、私は与しない。現代社会は、地球環境問題という新しい課題を発見し、これへの対応をやれるだけやってみたらよい。こういう視角から社会も国も企業も個人も揉まれ、もう一段高い質の社会に到達すればよいのである。世界がこの良性の恐怖から当分醒めないことを望むのみである。」(48頁)