「権威主義国」の特徴と「歴史戦」
山崎雅弘『歴史戦と思想戦―歴史問題の読み解き方』集英社新書、2019年より。
「筆者の認識では、近現代における「権威主義国」に共通する特徴として、以下のようなものが挙げられます。
【1】時の国家指導者の判断は常に正しいと見なす「国家指導者の権威化」
【2】時の国家指導者とそれが君臨する国家体制を「国」と同一視する認識
【3】時の国家指導者に批判的な国民を「国への反逆者」として弾圧する風潮
【4】国内の少数勢力や近隣の特定国を「国を脅かす敵」と見なす危機感の扇動
【5】その国家体制を守るために犠牲になることを「名誉」と定義する価値観
【6】伝統や神話、歴史を恣意的に編纂した「偉大な国家の物語」の共有
【7】司法・警察と大手メディア(新聞・放送)の国家指導者への無条件服従」(pp.120-121)
「戦前と戦中の「大日本帝国」の場合、国家体制は右の七項目の条件すべてを満たしていました。その程度は、明治・大正・昭和初期(一九四五年まで)で多少の変動はありましたが、一九三五年の「国体明徴運動」から一九四五年の敗戦までの一〇年間は、とりわけ「権威主義国」に共通する七項目が顕著な国でした」(p.121)
「産経新聞などが展開する「歴史戦」は、直接的には一九四五年の敗戦で失われた【6】の項目を再び取り戻そうという言論活動と見ることが可能ですが、そこで精力的に発言する論客の言動を観察すれば、ほぼ例外なく、それ以外の六つの項目についても「誇りある国家」に必要な要素として肯定的に評価していることがわかります。
つまり、「歴史戦」とは、歴史問題についての言論活動であるのと同時に、戦前と戦中の「大日本帝国」と同様の「権威主義国」に、日本を再び戻そうという政治運動の重要な一側面、あるいは一戦線であると読み解くことができます」(pp.121-122)