文化とはもともとイヤミったらしくて差別的なもの

教養の書

戸田山和久『教養の書』筑摩書房、2020年より。

※強調は原文。

 文化のもつイヤミで差別的な構造と、文化の多様性と豊かさは表裏一体である。われわれは現在、能も歌舞伎も、謡曲義太夫浪花節も民謡も、クラシック音楽もブルースもヒップホップも楽しむことができる。それは、文化が階層と結びついて発展してきたからだ。「上」からの軽蔑と「下」からの反発が動因となって文化は豊かになる。だから、文化というものは多少の悪徳の匂いを伴う。毒のある土壌に咲いた花のようなものだ。その花にも毒がある。これを知らずに手放しで礼賛するのは能天気だが、その花の美しさに鈍感なのも不幸なことだ。(p.54)

 

 知識や良い趣味を身につけようとすると、ちょっとばかり人が悪くなるかもしれない。そうでない人に対する蔑みを心に抱くようになるかも、ということだ。われわれはそういう弱さをもっている。さりとて、無知を嘲笑い、無理解を憎み、悪趣味をバカにするといった「悪徳」を避けようとするあまりに、自ら知の世界から遠ざかろうとしないでほしい。これが、私がキミたちにお願いしたいことなんだ。過度の倫理的潔癖さは反知性主義の餌食になりやすい。(p.55)