ジョセフ・コンラッド『闇の奥』(岩波文庫、1958年)書評
- 作者: コンラッド,中野好夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1958/01/25
- メディア: 文庫
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このコンラッドの『闇の奥』に描かれている白人たちも、まさしくこうした脅迫観念にとりつかれ、現地人や現地の慣習に対する無知・無理解のせいで、ちょっとしたことでパニックを引き起こしてしまう。先日読んだヴェルヌの『海底二万海里』に出てくる現地人(パプア人)も、同様に自分たちを襲ってくる獣のような存在として描かれていた。このような白人の脅迫観念は、しばしば現地人の大量殺戮とその正当化の論理に通じる。この『闇の奥』がコッポラ監督の大作『地獄の黙示録』の原案になったと言われるゆえんである。冷戦期、アメリカは共産主義の「ドミノ理論」に対する恐怖感のあまり、アジアの小国を侵略した。また、アメリカの建国初期には、インディアンの襲撃を恐れた入植者たちが、インディアンをほぼ絶滅に追いやった。ここに通底しているのは、未知のものに対する怯えであり、それを取り除き秩序を作り出す自らの力に対する過信であった。本書に登場する白人たちも、自身の体に沁み付いている「恐怖の文化」のために、自らの人間性を破滅させてしまった哀れな人間たちであった。