つれづれ日記:留学生と大家さんのゴタゴタ@DC

今日は実際にいま自分が住んでいる家で起こったことを書きます。自分の日記としての目的と、留学中の学生または留学しようと思っている人に参考にしてほしいという思いから、できるだけ詳細に書こうと思います。


いま自分は、ワシントンDCのとある高級住宅地にある一軒家の地下を間借りしています。1階より上には4人家族が住んでおり、家のことをすべて取り仕切っているのはお母さんです。地下には自分の他にもう一人留学生が住んでいて、自分の部屋よりも一回り大きい部屋に住んでいます。二人はほぼ同じ時期に入居し、お互いに仲良くやっています。


もともと入居する際に、地下には電話がないしインターネットもないが、それでもいいかと言われ、電話はそのうち携帯を持つだろうと思っていたので(まだ持ってない 笑)別に気にせず、インターネットは確かにないと不便だが、学校でいくらでもできるし、図書館のほうが自分の部屋よりも集中して勉強できる性分なので、これについてもそれほど気にはしませんでした。(逆に常時インターネットを使える状況にいると、いつまでもだらだらとネットサーフィンしてしまい、それは非常に時間の無駄であるという思いは今も変わっていません。)


住み始めてから数ヶ月後、大家さんが新しくDSLのインターネット接続サービスに加入することになりました。これはパスワードさえ知っていれば、家の中にいる人は誰でも利用できるワイヤレスのサービスで、大家さんは地下に住む二人に「月々10ドルでインターネットをシェアしないか」と言ってきました。二人は喜んでシェアすることにし、それ以後は何の問題もなく、好きなだけインターネットを自宅で使えるようになりました。


問題が起きたのは寒い冬がやってきた時のことでした。ある日大家さんは、「インターネットの使用時間を制限したい」と言ってきました。彼女によると、平日の昼間(朝9時〜午後5時)はネットを切断することにしたいとのことでした。自分の場合はもともと図書館でのほうが勉強に集中できるし、別に自宅でのインターネットにそれほど執着していたわけではないのですが、困ったのはルームメイト(部屋をシェアしているわけではないのでルームメイトとは言えないのかな)のほうで、彼は授業のとき以外はほとんど自分の部屋で過ごしているのです。部屋で勉強する人にとっては、調べものをしたりメールを送受信したりするのにどうしても自分の部屋でのインターネットが必要です。


彼は大家さんに、月10ドル以上払ってもいいから、無制限でインターネットを使わせてほしいと言いました。大家さんの答えはNoでした。仕方なくルームメイトは僕と一緒に新しいワイヤレスインターネットサービスを申し込むことにしました。先にも書いたとおり、自分の場合はそれほど自宅でのネットに執着はしていなかったのですが、このサービスを始めると電話回線も持てるので、今まで電話のなかった生活から抜け出せることになります。通話料金の高い携帯電話を買う必要もとりあえずはないし、どうしてもかけたい時だけ上の階に行って大家さんに借りていた電話と違って、いつでも自由に使うことができます。また日本にいる家族がこちらへ自由に電話をかけることもできるようになります。


ところが問題は、このサービスの設定でした。サービス会社の技術者が設定にやってきたのですが、なぜか約束の日になってもサービスは始まりません。ルームメイトが再度会社に電話して聞いてみたのですが、会社のオペレーターは「すでに使えるようになっているはず」と言うのです。ただオペレーターが言うには、家の中にある回線を上の階から地下に切り替えないといけないのだが、そのスイッチを家の誰かが(間違ってかどうか知らないが)元に戻してしまったのではないか、というのです。


ルームメイトは事情を大家さんに説明し、そのスイッチを見てもらえないかというのです。ところがこれについても大家の答えはNoでした。ルームメイトはついに堪忍袋の緒が切れ、その後は二人の間で幾度となく激しい口論が繰り広げられることになりました。


ではなぜ大家さんはNoと言い続けたのでしょう。そのわけは電気代にありました。年末からお正月にかけては驚くほど暖かかったワシントンDCも、1月の半ばあたりから急激に寒くなりました。大家さんによると、1月の光熱費が昨年の同じ時期と比べて30%も上がっているのだそうです。12月も含めて、連続して2ヶ月、月々1700ドルの光熱費を払ったと彼女は言いました。まあそれはどうしようもないことですが、大家さんの言い分によると、ルームメイトの彼が窓を開けっぱなしにしたりヒーターをつけたまま外出したりしているのが光熱費アップの原因だというのです。ルームメイトは全く身に覚えがないことなので、そんなことはないと主張したのですが、大家さんは実際に窓を一日中開けっ放しにしているのを見たし、うちの子供たちもちゃんと見たと言います。こうなるともう「やった」「やってない」の水掛論争です。どちらが本当なのか自分には全く見当もつかないし、光熱費の急上昇がルームメイトだけのせいだという証拠があるわけでもないので、判断はできません。ところが大家さんは、アップした分はルームメイトが払うべきだと主張し、ルームメイトは「すでに光熱費として毎月家賃と一緒に50ドル払っているのだから、これ以上1セントも払うつもりはない」と譲りません。口論はますます感情的になり、大家さんとルームメイトは顔を合わせるのも避けるようになりました。


大家さんがインターネットの利用時間を制限したいと言ったのはこの光熱費の上昇が原因だったのです。つまり、一日中部屋にいられたのでは光熱費は上がりっぱなしだというわけです。ここでルームメイトは強硬に反論します。家賃を払って住んでいる以上、どれだけの時間自分の部屋にいようとそれはこちらの自由だ、と。部屋に滞在する時間を制限する権利は大家さんにはないと主張したのです。これは全くもって彼の言うとおりであり、部屋に滞在する時間の決まりは入居条件にはなかったはずです(あるわけない)。また、最初は大家さんのほうから「10ドルでネットをシェアしないか」と言ってきたのに、その条件を途中で変えるのもアンフェアです。口論している最中の一時期、ルームメイトは真剣に裁判に訴えることも考えたようです。彼はロースクールの学生であるため、もう他にどうしようもなくなった場合は、法的手段をとるべきだと本気で考えたようです。彼にとってこの問題は金銭の問題ではなく、「原則(principle)の問題」(本人談)であり、お金を払うことは別に自分にとってたやすいことだが、それでは自分の原則を曲げることになるので絶対に払うことはできないのだと何度も言っていました。


もちろん月に1700ドルも光熱費を払わされたら、何とかしないといけないと思う大家さんの気持ちもわかります。でも突然「制限します」では、お金を払っている我々は簡単には納得しかねるでしょう。もっとやわらかく「光熱費が増えて大変だから協力してもらえないか」と言ってくれれば、ルームメイトもここまで冷静さを失わなくて済んでいたはずです。


まあ済んでしまったことは仕方ありません。二人はすでに新しいDSLサービスを申し込んでしまったし、再度技術者を呼ぶとなると、それだけで90ドル取られるのだそうです。だから、何とかして大家さんの協力を得て、そのスイッチとやらを切り替えないといけないのです。ルームメイトによればそれはほんの数秒で終わる作業らしいのですが、大家さんの許可なしに勝手にいじることはできないし、あとで大家さんの電話回線のほうに悪影響が出たりしたら、問題はますます悪化してしまいます。


ルームメイトと大家さんがさんざん口論したあと、しばらくしてからお互いにもっと冷静にならないと何も解決しないと考えるようになり、ルームメイトは可能な限り礼儀正しくやわらかい態度を心がけるようになりました。大家さんも「自分も少し彼に言いすぎた」と書いたメールを送ってきてくれました。


アメリカに来て初めて目の当たりにした利害の衝突でしたが、お互いが「自分のほうが絶対正しい」と思い込んでしまっているために、言い争いはいつまでも平行線をたどるのです。基本的には二人ともとてもいい人で、本当に愛すべき人となりを有しているのです。しかし、たとえ個々人が「いい人」でも、人間生きている限り利害の衝突は起こりうるのだということだと思います。今回のようにお互いが冷静さを失ってしまうと、解決するはずのものも解決しなくなり、双方はますます意固地になってしまいます。また、留学中にはこれに類した利害衝突が時として起こってしまうものです。現にルームメイトがそうだったのですが、あまり問題がこじれてしまうと、やらないといけない他のことがまったく手につかなくなるという事態になります。言うまでもなく留学生にとって一番重要なのは授業の宿題をしっかりやって、できることならいい成績でパスすることです。それに支障が出るようなことは、できるかぎり避けたいというのが本音です。


とりあえず今のところは争いも少し落ち着きました。まだ完全に解決するまではもうしばらく時間が必要ですが、今後少しずつ解決の方向へ向かってくれることを祈っています。