つれづれ日記:日米除雪比較考

sunchan20042005-03-08

北海道で生まれ育った自分が、東京へ出てまず驚いたことの一つに、公共交通機関の降雪への対応の違いがあった。東京では雪が積もるほど降ることはかなり珍しいが、それでも毎年雪は降る。にもかかわらず、雪が降るたびに山手線をはじめとして都内のJRの路線は軒並み運行を一時的に停止し、市民の移動に大きな悪影響を与えている。これは北海道の鉄道では考えられないことである。多少の降雪はもちろんのこと、どれほど雪が積もっても鉄道が運行休止になることはほとんどない。地域によって雪対策の充実度が異なっているからだろう。

ここワシントンDCではどうだろうか。DCはおよそ北緯39度に位置し、日本でいえばだいたい盛岡や仙台あたりと同じ緯度になる。関東や西日本に比べても冬の寒さは厳しいし、気温が氷点下になることも時々ある。雪も毎年かなりの量が降る。しかし、DCで雪が降った際に目立つのは、公共交通機関の停止よりはむしろ、ほとんどの学校が生徒の安全を考慮して休みになることである。DC市民の降雪に対する意識と自治体の雪対策はどのようになっているのだろうか。

3月5日付のワシントン・ポスト紙のウェブ上(以下WP)で、「読者の声」欄に相当する「Letters to the Editor」において、雪で学校を休みにしたり遅れさせたりすることの是非が議論されている。ある人は「公共のバス(メトロバス)を利用して学校へ行けばよい。休みにするべきではない」と言い、別の人はそのような意見を批判して「子供の安全を最優先すべき。公共のバスは、スクールバスと違って子供の安全を優先して運行されてはいない」と主張している。スクールバスの運転手は雪道での運転の訓練を十分に受けていないため、学校側は不測の事態を恐れてスクールバスを運休にしているのだ。いずれにせよ、降雪で学校を休みにすべきかどうかの議論が起こるというのは、特に北海道ではあまり見られないものではないだろうか。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A64392-2005Mar1.html
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A8727-2005Mar4.html

次に自治体の対応の仕方はどうなっているだろうか。降雪注意報が出された2月27日付のWPによると、DC当局は翌日の朝9時半から始まる「降雪緊急事態」を発表し、赤と白の「降雪緊急道路標識」が立てられている道路から全ての車を排除するよう命じた。違反駐車をしている車には250ドルの罰金が課され、近くの通りへレッカー移動させられる。またDC市役所交通課は、翌日の深夜1時から全面動員を予定し、道路への塩まきと数インチ(1インチ=2.54cm)積もるごとに除雪を行うことを発表した。DC交通課のスポークスマン、ビル・ライスによると、150機の除雪用機械が準備され、250人の職員を12時間交代制で動員するという。

お隣のヴァージニア州でも同様の措置がとられている。ヴァージニア州役所交通課スポークスマンのジョアン・モリスによれば、夜8時に道路担当の職員が出勤し、夜中の2時までに主要な道路と高速道路に800台のトラックを配置するという。必要であれば1200台のトラックを用意できるとしている。DCと同様に道路には塩をまき、2インチ積もるごとに除雪を行うと述べている。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A57761-2005Feb27.html

以上のような雪対策や除雪作業は、多かれ少なかれ日本の積雪地方でも行われていることかも知れない。しかし、おそらく大きく異なると思われるのは、除雪作業へのITの導入である。数年前までは、除雪作業をしている小グループの監督は、小型ラジオのみでグループ間の連絡を取り合っていたが(そして今でもそのような手段は残ってはいるが)、現在はほとんどの除雪機やトラックが衛星を利用したGPS(Global Positioning System、全地球位置発見システム)によって、それらの位置が全て一目瞭然になるようなシステムが導入されている。担当職員のフランク・ロビンソンは、室内でパソコンの前に座り、部屋の大きなスクリーンに映し出された大きな地図を見ながら、現場の職員や除雪機の運転手たちに電話やラジオを使って指示を出したり、除雪と塩まきをしているトラックを監視したりしている。
http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/articles/A57117-2005Feb27.html

このことを書いているうちに、偶然下のサイトを見つけた。「日米除雪車支援システム見学報告」と題されている。GPS以外にもずいぶんといろんな技術が除雪作業に利用されているようだ。
http://www.ahsra.or.jp/jpn/c04j/comm_coop/10j_hosa.htm

この報告によると、ミネソタ州カリフォルニア州除雪車支援システムでは、GPSの他に除雪車に「障害物検出レーダ」が搭載されている。このレーダは「吹雪や積雪によって見えにくい前方車両の走行車線と車間距離を検出して車間距離情報や追突・衝突警報の衝突防止支援を行う。」またGPSは、除雪車の位置を正確に認識することによって、車線を外れることなく雪道を進めるように情報提供をする。レーダやGPSで得られた情報は、車内のディスプレイに表示されるようになっている。

しかし、言うまでもなく、このような最先端の技術を導入するには莫大な予算が必要となる。小さな自治体が単独で導入するのはもちろんのこと、ワシントンDCやニューヨークのような大都市でさえも、このような技術の導入には予算上の大きな制約がかけられているようだ。さきほどのフランクリン・ロビンソンについての記事の中で書かれていることだが、DCの年平均積雪量は平均15インチであるにもかかわらず、2002年と2003年には40インチもの雪が積もり、除雪のための予算はすぐになくなってしまった。そのため除雪作業員は融雪剤の塩を節約しながら撒いているという。また人員も十分ではなく、市民からの除雪の要望が最も強い小道の除雪は行われないままになっているという。そのため、市の金融アナリストとして予算を扱っているトロイ・ブログデンも、時として除雪車のハンドルを握るのだそうだ。

DCから北東へおよそ300km離れているニューヨークでも、台所事情はほぼ同じようだ。3月1日付ニューヨーク・タイムズ紙のウェブ版によれば、除雪の予算は赤字になってしまっている。記者会見を行ったブルームバーグ市長によれば、その日までにニューヨークでは32インチの雪が積もり、1インチにつきおよそ100万ドルの予算が必要なのだという。その場で市長は、「我々はもう予算を使い尽くしてしまった」と告白してしまったほどだ。
http://www.nytimes.com/2005/03/01/nyregion/01cnd-snow.html

除雪作業に最先端の技術を導入しているアメリカでも、予算の制約は万国と変わらず悩みの種となっているようだ。(完)

【参考にさせていただいたブログ】
http://keicho.ameblo.jp/entry-7d2180ccfe76fb1a07a21300b5c6d2b6.html