岸川真『フリーという生き方』書評

フリーという生き方 (岩波ジュニア新書)

フリーという生き方 (岩波ジュニア新書)


巻末の「岩波ジュニア新書の発足に際して」によると、岩波ジュニア新書というものは、若者が「現実に立つ向かうために必要とする知性、豊かな感性と想像力」を育てるために提供されるものだという。しかしこの本は、中年以上の社会人が読んでも十分面白い内容の本だと思う。「フリーという生き方」には当然年齢制限などないというのももちろんあるが、いろんな意味において人生のピンチを迎えたとき、自分以外の人たちはどうやって切り抜けたのだろうということに対して、人間は普遍的に興味を抱くものだと思うからである。


この本のことは、先日の読売新聞書評欄で初めて知った。評者が言っていたとおり、「ひとと濃く関わる」の章が一番面白く、とても参考になった。フリーだからこそ、人間関係はシンプルでかつ濃いものに、という著者の「少数精鋭」(64頁)的交友関係の考え方には共感できるところが多かった。


また、どんなに追い詰められても、そこには必ず喜劇的要素が含まれており、その時そのことに気づくかどうかで気持ちの持ち様が変わるというのは、まさに自分が日頃から考えていることだった。

僕たちの日常には喜劇のトーンがある。どんなに悲しい時にも笑いの要素は転がっています。逆上している時だってそう。現実に頭を突っ込んで苦しみもがいている時に、客観視して自分を笑うのは大変かもしれません。だけど、認識を変えてみることで余裕を持てば、どんな苦境でも、あわてず騒がず切り抜けられるのではないでしょうか。(132頁)

チャップリンの「人生はアップで見ると悲劇だが、ロングショットではコメディだ」という言葉を思い出した。どちらも複眼的思考の大切さを説くものだ。


ちなみに、同時並行で佐藤和夫『仕事のくだらなさとの戦い』(大月書店、2005年)を読んでいたのだけど、どちらも結論部分で「地域コミュニティとの関わりの大切さ」を説いていたのが印象的だった。岸川は「地域コミュニティづくり」(84頁)が濃い人間関係の拠点になるといい、佐藤は、相互のコミュニケーションが一見苦痛でしかない労働を楽しいものに変えるといい、その実践の場として「新しい地域づくり」(163頁)を位置づけている。人間にとって「働く」ということはどのような意味を持っているのかについて、どちらも深く考えさせられる本である。


もちろん、本書には明るい話ばかりではなく、著者をうつ病にまでさせたフリーという職業のストレスや、がけっぷち状態での苦しい金策の話も出てくるが、先述のとおり他人がどうやって苦境を切り抜けたかというのは、フリーではない人々にとっても非常に参考になるはずだ。若い人だけでなく、「いったい自分はなんのために働いているのか」と思っている大人の人たちにもおすすめの1冊である。