同情にも称賛にも値しない

元外務省主任分析官の佐藤優氏が、11月12日の朝日新聞で「尖閣映像の流出」について語っている。

「まず、上司に公表を求め、受け入れられないなら、辞表を提出し、一私人となってからデータを流す手順が不可欠だった」と述べている箇所については、そんなことができるなら最初からこんな事件など起きてないだろうと思ったが、以下の箇所については自分も同意している。

オピニオン・耕論 「同情にも称賛にも値しない」

ビデオをインターネットに流した者に対する同情論が国民の間で出ているが、私は、犯行に至る経緯を徹底的に究明し、形式にのっとって厳正に処分すべきだと考える。(中略)

1932年、帝国海軍将校が時の犬養毅首相を暗殺した五・一五事件の時に、「方法はともかく、動機は分かる」と、刑の減免を求める運動が起こり、軽い処分で収束した。この対応が後に二・二六事件(36年、陸軍の将校が大蔵大臣高橋是清内大臣斎藤実らを殺害したクーデター)を誘発した。

海上保安庁が機関砲を所持している官庁だということを忘れてはならない。

武力を行使できる公務員に対して、統制が取れていない行為を認めることの危うさを、国民は肝に銘じておくべきなのだ。激励の電話を海保にかけ、彼らを喜ばせてどうしようというのか。独断専行を許したしわ寄せは、自分たちに来る。(中略)

二・二六事件以降、政治家も論壇人も軍事官僚を恐れ、日本は戦争へとなだれ込んでいった。人間は暴力装置には逆らえない。だからこそ、武器を持っている官庁には特別なモラルが求められる。鳩山前首相が今回のビデオ流出を聞き「クーデター」と評したことは本質を突いている。

朝日新聞2010年11月12日付朝刊より

ビデオの流出の仕方も、最初から国民の同情をひくことができるという計算に基づいていたように見える。これが特例として許されるなら、これから次々と似たような事件は起きるだろう。中国に途中で腰砕けになった政府に期待するのも的外れかも知れないけど、きっちり厳罰処分を貫いてほしい。