Robert M. Perito, Afghanistan’s Police

 治安部門改革について多くのレポートを出していて、The Police in War: Fighting Insurgency, Terrorism, and Violent Crimeの著書もある米平和研究所(United States Institute of Peace: USIP)のRobert Peritoによるアフガニスタンの警察改革のレポート。Andrew Wilderのレポートが2007年7月に出たのに対し、これは2009年8月に出たものなので、Wilderが報告したアフガン警察改革の「その後」についてのレポートと言えるだろう。しかし、実際に示されているアフガン警察は相変わらずcorruptやineffectiveなど否定的な言葉で形容されていて、2年前の状況とほとんど変わっていない実態が示されている。また、注からも明らかなようにWilderのレポートが繰り返し引用されているので情報や各組織に対する評価は重複しているものが多い。ただし、2007年6月にドイツから警察改革の「キーパートナー」を引き継いだEUによる警察改革ミッションEUPOLについては、Wilderが長期的な文民警察の育成を目指す「ドイツ型」の警察改革が今後は強まっていくだろうと予想していたのに対し、このPeritoのレポートではEUPOLもやはり他のアクターとの調整に苦しんできたことが示されている。具体的にはEUPOLがNATOの展開する国際治安支援部隊ISAF)とうまく関係を構築できていないこと、EUの枠組とは別にイタリアとカナダとイギリスもアフガンとの二国間による警察支援プログラムを実施していること、さらにNATOが自身の警察改革プログラムNATO Training Mission-Afghanistan(NTM-A)を始めたことがEUPOLの活動をより複雑なものにしているという。特にNATOISAFによって反乱鎮圧作戦(counterinsurgency)を行っている軍事組織であるため、EUPOLとは異なるヴィジョンで警察改革を行っている。NATOがEUPOLに軍の保護を与える代わりに軍の指揮下で活動するよう要求したという事実にも、両者間の理念の違いが表れている。また、アフガン駐留米軍司令官(当時)のマクリスタルがアフガン市民の保護を第一優先にすると述べていることと、オバマ政権による人員と訓練の増加を重視したいわゆる“train and equip”プログラムが矛盾していることが指摘され、オバマ政権の戦略に基づいて同じことをこのまま続けても成功の見込みは薄いと述べられている。警察改革に関わる多くのアクター間の調整の難しさという本質的な問題は2009年の時点で何ら解決されていなかったことがわかる。

 ちなみに、Wilderのレポートの中では警察改革の中で頻繁に出てくるtrainerとmentorという言葉の違いがよくわからなかったのだが、このレポートではmentorは「個々の警官と共に働き、個人的な関係を築き、訓練を支えるロール・モデルを提供する」(p.6)と述べられている。警察学校などで訓練を与えるだけでなく、ともに現場へ出て実地訓練(on-the-job training)まで行うのがmentorということになるだろう。