荒俣宏が語る仕事
8月5日・朝日新聞求人欄より。
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荒俣宏が語る仕事:「潜在力に投資しよう」
関心領域を三つ、四つ
本業以外の趣味が仕事力を深めていく
例えば営業職の人が、担当する得意先の人と趣味が同じだと分かった時には、おそらく急接近するでしょう。マンガ『釣りバカ日誌』の主人公ハマちゃんが、趣味の釣りで自社の社長から地方の初対面の人まで人間関係を濃密にしていくエピソードは、決しておとぎ話ではなく誰にでも起こり得ることです。
でも、相手に合わせた趣味を始めよなどと、小手先のマニュアルを言っているのではありません。一つの仕事に就いたからといって、好きなことを封印しなくてもいい。その大好きなことを本業と並行して追い求めていって欲しいと思いますね。なぜならそれが、異なった状況で知恵になることがある。つまり、将棋の強い人間が人事戦略に長けていたりするのは、偶然ではないのです。
狭い趣味の領域に閉じこもっているなら、オタクと呼ばれるだけかもしれません。しかし、自分の周りには外に開かれた複数の窓があると思い描いてください。例えば音楽という自分の趣味のキーワードで、織田信長を学んだらどうなるかというように、関心領域の窓を開けていくのです。あなたの趣味のフィルターを通していくと、それは誰もが持っている一般情報ではなく、あるキーワードによって貫かれた「強力なオンライン」になる。他の人に聞いても出てこない分野を開いていくのですね。
ポテンシャルを高める「時間」という投資
グローバル社会だというから英語を学ぼうとか、不景気だから手堅い資格を取ろうとかという考え方は、本当にあなたの力となるか。人生を幸せにするだろうか。英語が好きでたまらない人はもちろん究めてください。それはきっとグレードが違うところまでいくはずです。
そうではなく外からのプレッシャーでと言うなら、周りから何と言われようと、自分の好きな無駄なことに労力と時間を使いなさい。なぜなら、世間が考える仕事の常識とは異なる無駄にこそ、ポテンシャル、潜在価値が眠っているからです。これからの多様な時代は、最大公約数的な価値観では均質過ぎて、日本の仕事力が育たないと思うのです。
このごろテレビを見ていて、これは違うなと感じることがあります。家計簿を診断するという番組などで、家計の専門家と名乗る人が「この支出は無駄だから削りましょう。我慢してもらいましょう」と言う。ここにはとても重要な示唆が含まれているのですが、削っている「無駄」には、実は伸びしろというか自分の新しい道を拓く可能性があるのです。
そして、人間にはお金がなくても投資に回せる資源がある。それは時間です。メジャーでなくていい。関心があって好きな分野に、きちんと時間と気持ちを注ぎ、「こんなことを知っているのは君しかいないよ」と言われるポジションを取りにいってください。
(談)